Days293 「Winter Kill」 晴 12月11日未明
その全て、もう誰かにあずけたんだね……。
あんな体で雨の中を歩き続けたら、身体を壊してしまう。 すぐに見つけ出して、店に連れてきて、ホットカクテルを飲ませてやろう。美勇起を探しに行くため、通りを駆け出そうとした時だった。
「晴さ~ん♪ この人たち、みんな、あなたのファンらしいですよ~♪」
翔さんと智さんがたくさんの女性を引き連れてやって来た。聖和大病院の看護師さんたちだった。光一さんから話を聞き、わざわざ俺のために来てくれたらしい。
「晴くんのお仕事姿、かっこいぃ~~~~!!!」
本当は今すぐにでも探しに行きたい。でも、彼女たちの好意を無に出来ない。俺は『Butterfly』存続のためにここへ派遣されてきた。その責任もある。
「わざわざお越しいただきまして、ありがとうございます。お寒いでしょう、中に入って下さい」
大丈夫。あいつは見かけほど、やわじゃない。きっと今頃、家に戻って、熱いコーヒーでもいれているはずや。俺は美勇起を信じた……。
注文されたカクテルを次から次へと作っていたときだった。秋山さんが慌ててやって来た。俺を手招きで呼び、橘さんからの伝言を告げた。美勇起が食事の途中でいなくなり行方がつかめなくなったというのだ。携帯電話も置いたままで連絡が取れない状況にある。もし『Butterfly』を訪ねて来たら、すぐに連絡をくれという…。
「……あいつ、近くまで来ていたらしいんです」
「えぇっ!そんな…何で寄ってくれなかったんだろう?」
それはたぶん、ここに俺がいたからや…。
「晴くん、行かなくて、いいの?」
「……でも……お客様がいらっしゃるのに…」
「お客様は何人でもいます。でも、大月さんはひとりしかいないんですよ? もしものことがあったら、どうするんですか?」
「大月さんって、ミユ様のこと?」
秋山さんの大きな声で、美勇起の話をしていることが漏れてしまったようだ。
「ミユ様なら、さっき……ねぇ?」
看護師のひとりが話しに加わった。が、すぐに両脇の二人からつつかれ、口をつぐんでしまった。
「美勇起、見たんですか? どこで?」
しかし、なかなか話し出そうとしない。
「たのむ。教えてくれへん? あいつ、ひとりでどこ行きよった?」
「それが……ひとりじゃ……なかったの……」
ひとりじゃ、なかった? それは、つまり、誰かと一緒だったということ・・・?
俺はすぐに橘さんに連絡を入れた。最も信頼できる、たよりになる人間がそばについているので安心して下さいと、伝えた。橘さんは大きな息をついた。よほど心配していたのだろう。周囲からも安堵の声があがるのが聞こえた。
「で、そこにいるのか?」
橘さんが明るい声で言った。いるのなら、替わって欲しいという。俺は胸の奥深くを鋭いもので突かれた。残念ながら、美勇起はここにはいない。彼が最終的に頼ったのは、俺やなくて、別の人間やった。これからその人に連絡を入れて、明日にでも必ず美勇起を家に戻すよう頼むつもりだと伝えた。橘さんは、一瞬、言葉に詰まったが、よろしく伝えてくれと言い、電話を切った。
美勇起が一緒にいた人というのは、長澤先生やった・・・。
俺は看護師さんから長澤先生の携帯の番号を教えてもらい、電話をかけた。長澤先生といれば身体に不調を感じても、すぐに完璧な処置が取れる。歩けなくなっても軽々と抱きあげてくれるだろうし、どんな要望にも、欲求にも応えてくれるだろう。
先生は電話に出なかった・・・。そういうことなのだろうと解釈した。
閉店後の誰もいないカウンターでもう一度、電話をかけてみた。まだ一緒にいるのだろうか?いや、もうすでに美勇起を家に送り届けたあとかもしれない。そうであって欲しかった・・・。呼び出し音が鳴り、電話に出るまでの時間は、さっきとは比べ物にならないほど速かった。
「どなたですか?」
低く、押し殺した声だった。
「こんな時間にすいません、晴です」
長澤先生が息を飲んだ。もう、それだけで、そこに誰かがいるということがわかった。隣で眠っている彼を起こさないように場所を移動しているのだろう。衣擦れの音がやけに響いて聴こえた。
「あぁ………何……?」
「…美勇起、そこにいます?」
答えは返ってこなかった。その代わりに何か扉を開ける音がした。次の返事がくるまでに、しばらくの間があったのは、水か何かを喉に流し込んでいたからだろう。
「……いるよ。今、やっと寝かしつけたとこだ」
「…そう…ですか…」
「そうですかって、あんたなぁ! 何やってんだよ? 何でこいつ、ひとりになんかしたんだよ?」
「美勇起はひとりや、ありません」
俺は美勇起の両親が健在していること、一緒に暮らす準備を整えていることを話した。
「だから、明日には…いや、もう今日やけど、美勇起をご両親の元に返したって下さい」
「そういうことをあんたに言われるとは思わなかったな」
「お願いします。必ず、家に届けて下さい」
「……あんたさぁ、どうしちゃったんだよ? なぁ?この前の勢いはどこ行っちまったんだよ? なぁ? もう、あいつのこと、どーでもよくなっちゃったのかよ」
「そんな……ところかな?」
「マジかよ? 俺、もらっちゃうぞ?」
「……よろしくお願いします…」
「ふざけんなっ!お前なぁ、自分がそういう小細工の出来る人間だと思ってんのか!? バレバレなんだよっ! 誰がそんな物解りのいい奴になれっつったよ? 俺が言ったのは、そういうことじゃなくて……おい、こらっ、聞いてんのかよっ………」
俺は途中で電話を切った。言われなくてもわかっていた。俺は美勇起にも自分にも嘘をついた。美勇起を両親の元に返そうと思ったのは、自分に自信がなかったから…。
あいつの最期を見る勇気がなかった。怖かった。だから、逃げた。
どんな事があっても逃げないと約束したのに、それを嘘で塗りかためてまで、逃げた。卑怯な奴や。
その報いが早くも、来たのだと思った。
外に出た。刺すような冷気がひとりの俺を狙いすましたように襲う。
この冬をひとりで乗り切れないようじゃ……この先、思いやられるわ…。
もっと…強くなりたい……。
強くなったら…なれたら…堂々と会いにゆけるのに…迎えにいけるのに…。
あんな体で雨の中を歩き続けたら、身体を壊してしまう。 すぐに見つけ出して、店に連れてきて、ホットカクテルを飲ませてやろう。美勇起を探しに行くため、通りを駆け出そうとした時だった。
「晴さ~ん♪ この人たち、みんな、あなたのファンらしいですよ~♪」
翔さんと智さんがたくさんの女性を引き連れてやって来た。聖和大病院の看護師さんたちだった。光一さんから話を聞き、わざわざ俺のために来てくれたらしい。
「晴くんのお仕事姿、かっこいぃ~~~~!!!」
本当は今すぐにでも探しに行きたい。でも、彼女たちの好意を無に出来ない。俺は『Butterfly』存続のためにここへ派遣されてきた。その責任もある。
「わざわざお越しいただきまして、ありがとうございます。お寒いでしょう、中に入って下さい」
大丈夫。あいつは見かけほど、やわじゃない。きっと今頃、家に戻って、熱いコーヒーでもいれているはずや。俺は美勇起を信じた……。
注文されたカクテルを次から次へと作っていたときだった。秋山さんが慌ててやって来た。俺を手招きで呼び、橘さんからの伝言を告げた。美勇起が食事の途中でいなくなり行方がつかめなくなったというのだ。携帯電話も置いたままで連絡が取れない状況にある。もし『Butterfly』を訪ねて来たら、すぐに連絡をくれという…。
「……あいつ、近くまで来ていたらしいんです」
「えぇっ!そんな…何で寄ってくれなかったんだろう?」
それはたぶん、ここに俺がいたからや…。
「晴くん、行かなくて、いいの?」
「……でも……お客様がいらっしゃるのに…」
「お客様は何人でもいます。でも、大月さんはひとりしかいないんですよ? もしものことがあったら、どうするんですか?」
「大月さんって、ミユ様のこと?」
秋山さんの大きな声で、美勇起の話をしていることが漏れてしまったようだ。
「ミユ様なら、さっき……ねぇ?」
看護師のひとりが話しに加わった。が、すぐに両脇の二人からつつかれ、口をつぐんでしまった。
「美勇起、見たんですか? どこで?」
しかし、なかなか話し出そうとしない。
「たのむ。教えてくれへん? あいつ、ひとりでどこ行きよった?」
「それが……ひとりじゃ……なかったの……」
ひとりじゃ、なかった? それは、つまり、誰かと一緒だったということ・・・?
俺はすぐに橘さんに連絡を入れた。最も信頼できる、たよりになる人間がそばについているので安心して下さいと、伝えた。橘さんは大きな息をついた。よほど心配していたのだろう。周囲からも安堵の声があがるのが聞こえた。
「で、そこにいるのか?」
橘さんが明るい声で言った。いるのなら、替わって欲しいという。俺は胸の奥深くを鋭いもので突かれた。残念ながら、美勇起はここにはいない。彼が最終的に頼ったのは、俺やなくて、別の人間やった。これからその人に連絡を入れて、明日にでも必ず美勇起を家に戻すよう頼むつもりだと伝えた。橘さんは、一瞬、言葉に詰まったが、よろしく伝えてくれと言い、電話を切った。
美勇起が一緒にいた人というのは、長澤先生やった・・・。
俺は看護師さんから長澤先生の携帯の番号を教えてもらい、電話をかけた。長澤先生といれば身体に不調を感じても、すぐに完璧な処置が取れる。歩けなくなっても軽々と抱きあげてくれるだろうし、どんな要望にも、欲求にも応えてくれるだろう。
先生は電話に出なかった・・・。そういうことなのだろうと解釈した。
閉店後の誰もいないカウンターでもう一度、電話をかけてみた。まだ一緒にいるのだろうか?いや、もうすでに美勇起を家に送り届けたあとかもしれない。そうであって欲しかった・・・。呼び出し音が鳴り、電話に出るまでの時間は、さっきとは比べ物にならないほど速かった。
「どなたですか?」
低く、押し殺した声だった。
「こんな時間にすいません、晴です」
長澤先生が息を飲んだ。もう、それだけで、そこに誰かがいるということがわかった。隣で眠っている彼を起こさないように場所を移動しているのだろう。衣擦れの音がやけに響いて聴こえた。
「あぁ………何……?」
「…美勇起、そこにいます?」
答えは返ってこなかった。その代わりに何か扉を開ける音がした。次の返事がくるまでに、しばらくの間があったのは、水か何かを喉に流し込んでいたからだろう。
「……いるよ。今、やっと寝かしつけたとこだ」
「…そう…ですか…」
「そうですかって、あんたなぁ! 何やってんだよ? 何でこいつ、ひとりになんかしたんだよ?」
「美勇起はひとりや、ありません」
俺は美勇起の両親が健在していること、一緒に暮らす準備を整えていることを話した。
「だから、明日には…いや、もう今日やけど、美勇起をご両親の元に返したって下さい」
「そういうことをあんたに言われるとは思わなかったな」
「お願いします。必ず、家に届けて下さい」
「……あんたさぁ、どうしちゃったんだよ? なぁ?この前の勢いはどこ行っちまったんだよ? なぁ? もう、あいつのこと、どーでもよくなっちゃったのかよ」
「そんな……ところかな?」
「マジかよ? 俺、もらっちゃうぞ?」
「……よろしくお願いします…」
「ふざけんなっ!お前なぁ、自分がそういう小細工の出来る人間だと思ってんのか!? バレバレなんだよっ! 誰がそんな物解りのいい奴になれっつったよ? 俺が言ったのは、そういうことじゃなくて……おい、こらっ、聞いてんのかよっ………」
俺は途中で電話を切った。言われなくてもわかっていた。俺は美勇起にも自分にも嘘をついた。美勇起を両親の元に返そうと思ったのは、自分に自信がなかったから…。
あいつの最期を見る勇気がなかった。怖かった。だから、逃げた。
どんな事があっても逃げないと約束したのに、それを嘘で塗りかためてまで、逃げた。卑怯な奴や。
その報いが早くも、来たのだと思った。
外に出た。刺すような冷気がひとりの俺を狙いすましたように襲う。
この冬をひとりで乗り切れないようじゃ……この先、思いやられるわ…。
もっと…強くなりたい……。
強くなったら…なれたら…堂々と会いにゆけるのに…迎えにいけるのに…。
この記事へのコメント
でも ミユは絶対待ってるんだってば!ヘタレでも何でもいいから
早く行ってよ・・・あほ!
えーーーん!今「1リットル」見てきたから 泣けて仕方ないんだよ!!!!(壊れてる桜)うがーーーーー!!!!(叫)
ああああーーーもう みんなのばかばかばかーーーー!
『義経』をはじめ、連ドラが最終回を迎える頃ですな~。
3月からはじまったこの物語も最終コーナーにさしかかってきました。
至上最大にして最強のへタレくん達に幸せの時は来るのでしょうか?
どうぞ遠慮なく限界まで壊れて下さい。何しろ作者、深夜マニア系、
泥沼ダークの帝王ですから…。
桜ねぇ・・・消えてんのよ。だからRainちゃんと年越しできねえーーー(涙)
「ボク羽根」はそれまでに終われればいいなとは思ってるけど
わかんないし・・・。
何となく 次回作 妄想してたりして(笑)なんとなくだよ。
ぐすん(T_T)一緒に過ごせないのね…。
こちらは年末前にオーラス迎えます。
それまではまだまだ焦らすよ~ん♪