硝子の少年たち 56 -Cross編-

ぼくは車にドーモトくんのケージと愛車を積み込んだ。

愛車といっても、叔父さんからの入学祝いとしてせしめた通学用の自転車だ。色は赤。わかる人にはわかる、スーパーカーで有名な会社のもので、ぼくは大変気に入っている。
カーステレオからはファンクというジャンルの曲が小さく流れていた。叔父さんが今、ハマっている音楽らしい。

「今日は仕事が入ってるって聞いてたから、てっきり事務所の人が迎えに来るんだと思ってた。もう終わったの?」
「うん。すぐ近くで取材やってん。顔見知りの記者さんやったから、スムーズに進んで、これなら迎えに行けるわーって思って来てん」
通常、叔父さんくらいのアーティストになると事務所の用意した車でマネージャーと一緒に移動するのが常識だ。本当に取材を受けたのなら、最初から自分の車で仕事先に向かったことになる。仮に仕事の話はウソで、急遽、オフにしてもらったとしても、ぼくを迎えに来るために忙しい中、都合をつけてくれたことには変わりない。
「忙しいのに、ありがとうね」
「そんなん全然。それよりケガは? もう大丈夫なん?」
「ケガ?」
「なんや、ほらー、一時ワイドショーが騒いどったやろ? お騒がせ男を捕まえた、お手柄高校生とか言うて。あれ、ミユのことなんやろ?」
「あれはぼくじゃないよ。実際に取り押さえたのはさっきの長瀬さんだし」
情けない話しだが、ぼくは男の下敷きになって伸びていた。そして、眼も当てられないくらい汚れて、ボロボロになっていた。そのぼくを抱き起こし、ハンカチで止血し、救急車の手配をしてくれたのはオミだった。
「ケガはもう全然平気。あ、でもちょっと疵が残ってる。わかる、ここ?」
右の手のひらのちょうど中央あたりに、薄く傷跡が残っていた。真ん中をまっすぐに走る生命線を横切るように入っているせいで、それはまるで十字架のようにも見えた。
「……ごめんな、駆けつけてやれへんで…」
「だってしょーがないじゃん?」
「でも、 そういうときに一番そばにいて欲しいのは誰か?って、いうたら家族やん? 俺もお前くらいのとき、家族と離れて暮らしてたから、そういうのよぉわかんねん…」
ぼくはそのときはじめて、叔父さんがおじいさまや、父と離れて暮らしていたことを知った。ぼくの知らない、たくさんの過去が堂本家にはあるらしい。
「せやから、この夏はほんまのお父ちゃんが帰ってくるまでの間、俺がミユのお父ちゃんやからな」
「マジ?」
「マジ!」
「あ、もしかして……お母ちゃんはミクちゃんとか?」
ミクちゃんはぼくの叔母さんにあたる人だ。その昔“一億人の天使”と呼ばれたアイドルだった。彼女の中ではぼくはまだまだ、幼い少年のようで、この間、送ってきた荷物の中に、彼女の手作りと思われる、の布製の袋(体育館シューズ入れにちょうど良かった)が入っていた。何を思ってふたつも送ったのかは不明だが、お礼の意味も込めて、ひとつはオミにあげた。(押し付けた?)これで恥ずかしい思いをするのはぼくだけじゃない。
「ミクなぁ…ミユに逢いたがってたけど、今回は仕事も兼ねた滞在やから、遠慮してもろた」
今回の葉山での滞在は、冬に出すアルバムの制作も兼ねているらしい。ミュージシャン仲間と合宿形式でスタジオに篭るのだという。
「そういうことなら、仕方ないよね~♪」
ぼくは内心、ほっとしていた。どうせ叔父さんが仕事している間、やれ買い物に付き合えだの、お茶しに行こうだのと、引っ張りまわされるに違いないからだ。
「スタッフとかバンドメンバー来るまで、正味、三日間くらいやけど、基本オフやから。その間はどんな我儘も聞いたるで」
「マっジぃ!?」
「マっジぃ! 手始めに今夜は何食べたい? おフレンチか? イタ~リアンか? あーそれともやっぱ定番の焼肉か?」
「カレー!」
「カレー?」
「うん!シュウカレーがいい!」
シュウのつくるカレーが絶品だという話は、ファンなら衆知の事実だった。ツァー初日の打ち上げには、必ず、シュウカレーが振舞われるそうだ。残念ながら、ぼくはまだ、叔父さんの作るそれを口にしたことがない。ツァーに同行するわけにもいかないので、この時を逃してなるものかと、無理を承知でお願いしてみた。
「……ダメ?」
「えぇよ♪」
剛叔父さんは快い返事をしてくれた。

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この記事へのコメント

愛戦士桜
2007年03月12日 22:58
あー、いいねぇ・・・ずっとふたりで会話しててくれてもいくらい(笑)なーんて♪
桜もシュウーお手製のカレー食べたいわー☆
2007年03月13日 17:52
ほのぼのした二人の、やりとりに泣けてくる!
シュウさん、優しいねぇ♪寮生活でのストレスが、嘘みたいなひとときになってくれたらいいのになぁ。
シュウさんの手作りカレー・・・私も食べたいなぁ・・・。
2007年03月13日 18:44
小説読ませていただきましたぁ~♪
シュウさんのお手製カレーww
赤と青の布の袋はもしかして
IDのノベルティーグッツだったり(笑)
Blog Petのドーモトくん再び
2007年03月14日 19:58
読んだ。ドーモトくんが愛車を積み込んだね?
↑ 愛車!?それって奏とかKinとかショコラとか犬井くんとか?あんたいちばんチビのくせにエラソーだね?
Rain
2007年03月14日 20:00
愛戦士桜♪お加減いかが?もう少しふたりだけのシーンが続くよ(深い意味はないが)子供の成長におじとかおばの影響って大きいんだってね?ミィなんか影響されまくりかも?
Rain
2007年03月14日 20:04
SHINE♪あらそうぉ?でもほら~私のことだからさ、ほのぼの路線で終わらないよね?それはもう十分、ご承知だと思うけど(^^ゞ
Rain
2007年03月14日 20:07
クリィーミーマミちゃん♪読んでくれて、ありがとう~♪「硝子の少年」シリーズかな?それとも一等最初の「Days」(長いからなー)今回のCross編は「Days」ともリンクするとこがあるのでね。読んでると「あぁっ!」と思うかも?
2007年03月15日 06:54
Crossって。ミユのけがのことだったの?…と訳わからんことを思ってしまいました。
いいよね、男同士って。入り込めない雰囲気があるなぁ。うらやましいです。
カレー!シュウは、カレーのCMはやってますか?
ほんとだ。ドーモトくんの愛車を積み込むんだね。くるくる回るやつ?
もも
2007年03月15日 11:23
車に積め込まれた時のドーモトくんを想像したらまた笑っちゃいました♪可愛いなぁ~♪葉山までの道のりは大丈夫かな?
ふたりきりの温度いいですね~シュウさんの「えぇよ♪」なんだかすごく好きです☆あったかいなぁ~
Rain
2007年03月15日 22:09
てるひちゃん♪Cross。もちろんそれもあります。それ以外にも、交差とか、試練とか、とにかくいろんな意味を込めてみました。カレーのCM…やったのかなぁ?シュウの生みの母さん?
ドーモトくんがミィの真似っこして愛車を積む姿…かばゆいかも~♪
Rain
2007年03月15日 22:16
ももちゃん♪ドーモトくん「どこ連れていくんや!」ってケージの中うろうろしてただろうね。お買い物中は「暑っ!早く戻って来い」って怒ってたかも?シュウの「えぇよ♪」には彼の持っている優しさを表現させたつもりです。頭の中にあの包み込むような笑顔を浮かべて、この台詞を書きました。その前のミィの「…ダメ?」は上目遣いにアヒル口、おねだり萌え表情を浮かべて書きました(笑)

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