硝子の少年たち 57 -Cross編-

車は大きなショッピングセンターの駐車場に滑り込んだ。

カートを押して並んで歩いているときだった。叔父さんがうれしいことを言ってくれた。
「あれ…?ミユ、お前、背伸びた?」
「そう? あんまり自分ではわかんないけど」
「今、並んで気づいたわ。春に逢った時と目線が違う」
さっきは長瀬先輩と一緒だったからだろう。あの人の横に並ぶと、誰でもミクロサイズに見えてしまうのだ。
「うっわ、足長っ? お前、まだまだ、伸びるんちゃうかー? なんか腹立つわー、えー、お前。誰に似たんや?」
「黒崎のおばあ様じゃない? 昔、モデルさんだったんでしょ?」
「そうや、そうや! 堂本家にはそんなしゅーっとした体型の奴、ひとりもおらんもん! えぇい、寄るな!俺の横に並ぶな!」
「えぇーっ!?なんでよー!置いていかないでよー」
などと、ふざけながら、今夜の食材をカートに入れて歩いた。そんなぼくらをすれ違う人が必ず振り返って見てゆく。帽子を被り、薄いサングラスをかけていても、その声や雰囲気でぼくの隣にいるのが、アーティストのシュウだということに気付くのだろう。何人かに「ファンです」とか「がんばってください」と声をかけられた。その度に叔父さんはふわりと微笑んで、軽く頭を下げる。それは子供の頃から、何度となく見てきた風景だった。
「ねぇ」
「ん?」
「ミクちゃんとも、こうやって買い物に来る?」
「来るよー」
「結婚する前も来た?」
当時、どちらも人気絶頂のタレントだった。そのふたりがこうして歩いていたら、かなり目立ったのではないだろうか。
「どうやったかなぁ?」
照れているのか、叔父さんはそっぽを向いて答えた。
「デートとか、どうしてたの?」
「忘れたわ。そんなん」
「またまたぁ~♪」
「お前んとこのおとんとおかんは、よー二人で、手ぇつないで歩いとったで?」
「うちの話じゃなくてさー」
「それが不思議なもんで、なんや自分のことより、コーイチのことばっかり覚えとんねん」
そう言うと叔父さんはぼくの上から下までをじーっと見た。
「なに?」
「いや、なんでもない~♪」
「もー!何、笑ってんのー?」
「んふふふ~♪」
叔父さんはにやにや笑いながら、カートを押してレジへ向かって行った。

海岸沿いの道を車は快適に走って行く。以前にこの道を叔父さんと走ったのは、ぼくが中学一年生のときだ。暑い夏の年だった。父に夏休みが取れず、どこへも行けずにふてくされていたぼくをここへ連れてきてくれた。その頃から比べると、やたらとコンビニが増えた。近くにキャンプ地も出来たらしく、その専門店もある。別荘地として名前を馳せたのはとっくの昔。いまや大衆の観光地と化しているようだ。
車はやがて林の中へと入って行った。スピードをゆるめ、ゆっくりと走る。ここはウォーキング&サイクリングコースにもなっているので制限速度があるのだ。ぼくは早朝、この道を海に向かって走るのが好きだった。青い樹木の匂いと爽やかな風が、だんだんと海のものへと変わってゆく様を感じることが出来て楽しい。この匂いと風は今も変わっていないのだろうか?

そしてほどなく堂本家(と、いってももう、ほとんど叔父さんの秘密の隠れがと化している)の別荘に着いた。シーズン前には必ず業者に掃除を頼んでいるせいか、庭も、家の中も、きれいに手入れされていた。ぼくと叔父さんは手分けして部屋の窓を開け、風を入れた。ぼくは建物の中で涼しい、風通しの良い場所を見つけ、そこにドーモトくんを置いた。さすがはドーモトくん。環境の変化にもすぐ慣れ、丸くなってすやすやと眠っていた。ぼくはその姿を携帯で写真におさめ、オミに初メールを送った。どんな感想が返ってくるのか楽しみだ。

寝室に入り、荷物の整理を終え、周りに誰もいないのを確認(って、ぼく以外はいないのだが…)すると、ぼくはさっきの手紙を取り出した。ドキドキしながら、封を切ろうとしたその時、

ミユ~!

叔父さんがぼくを呼んだ。


手紙を開けるのは、またしても、おあずけのようだ……。

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この記事へのコメント

2007年03月14日 21:05
未開封の手紙の内容が気になります。
本物の(?)女子高生からのラブレターだったら嬉しいよね?
やっぱミィも、健全な青少年な訳だし!!
でもさぁ・・・この手紙が、また波乱を呼ぶのは間違いなさそうだわよね?

オミくんへの初メール・・返信も気になるぅ♪
もも
2007年03月15日 11:36
恋文の内容、またおあずけ…かなり気になります!!でも、《オミからの初メール》もすっごく気になっちゃいます♪丸くなってるドーモトくん可愛いですね♪その写真、ぜひ欲しいです(笑)
愛戦士桜@携帯から
2007年03月15日 15:14
氷かじりながら読みました♪はあ~♪めちゃめちゃ癒されるぅ~o(^-^)o
ミィくん、シュウ叔父さんにも波乱な青春があったのだよ(^O^)読みながら思い出しちゃった☆お兄やんと雪那もいろいろあったもんね☆手紙気になるね♪
Rain
2007年03月15日 22:20
SHINE♪女子高生でも大騒ぎなんでしょうね?
男の子だったらもっと大騒ぎ?さて差出人は誰なんでしょう?と、いう謎解きをいれつつ、物語は意外な方向へすすむ~♪
Rain
2007年03月15日 22:23
ももちゃん♪ふへへへ(^^♪ひっぱるよ~ん!
ドーモトくん、大物ですからね。ひょっとしたらお友達と逢えないことに気付いてないかも?
さすがももちゃん♪ミィかオミに転送してもらったらメアドわかるもんね?
Rain
2007年03月15日 22:28
B型インフルと戦う愛戦士桜♪そうだよねー?でも彼はそれを知らない。もちろん父の青春時代も知らない。そのことが今回の物語ではキーになってます。あなたの両親にも、あなたと同じように青春時代があったのです。今、目の前にいるその人には過去が歴史があるのです。人間というのはそうやって時間を積み重ねて生きているものなんですってとこかな?

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