硝子の少年たち 58 -Cross編-

キッチンへ行くと、叔父さんが調理台の上に食材を並べていた。

どういうわけか棚の中にあったと思われる調味料まで全部、そこに出され、また叔父さんは何度も買い物をしてきた袋の中を確かめていた。
「ねぇ、どうしたの?」
「んー?買い忘れたみたいなんやわー、××××××…」
それはスパイスの一種で、叔父さんのカレーには欠かせない一品なのだそうだ。
「なぁんだ。じゃぁ、ぼくが行って買ってくるよ」
「悪いなー。さっき通ってきた道に大きな店、あったやろ? あそこならあると思うわ」
「うん。見付けられなかったら、電話するよ」
「帰ってくるまでには仕込み終えとくから」
ぼくは愛車に跨り、海へと続く坂道を走った。

Tシャツを風でふくらませながら、ペダルを踏んだ。
木の匂いも風の温度も昔のままで、懐かしくて、うれしかった。

夏の午後の強烈な陽射しを背に受け、ぼくは目的の大型店に入った。中は冷房が効いていてあっという間に汗が引いた。あまり長居すると体が冷えてしまいそうだ。ぼくは出来るだけ早く、買い物を済ませようと、足を速めた。しかし、ここに入るのははじめてで、ただでさえ勝手がわからない。そのうえ中は迷路のようなつくりになっており、ぼくはたったひとつの調味料を探すために、かなり歩きまわった。そして、どうにか、その一角を見つけ出すことが出来た。

が、今度は棚にずらりと並んだスパイスから叔父さんの言っていたものを見つけ出さなければならない。普段から料理をする人なら、すぐにわかるのだろうが、あいにくぼくは門外漢だ。何種類もあるスパイスの中から、それを見つけ出すのは困難を極めた。棚を睨みつけながら、小さな文字を読み続けること数分、やっとそれが見つかった。長い間、探し求めていた運命の人にでも逢うような気持ちで、ぼくはそれを手に取った。そして調味料のスペルを確認していると、ぼくと同じように買い物を頼まれたのだろうか? 携帯電話を耳に当てながら、棚を指差している同い年くらいの女の子がやってきた。

「右から…いち、にぃ、みっつめの棚の…上から……?」
明るくて張りのある声につられて、ぼくも棚を見上げてしまった。
「あった! うん、見つかった! はいっ、すぐに買ってきます」
彼女は電話を切ると、デニムのポケットに無造作に突っ込んだ。そして目的のスパイスに手を伸ばした。と、丈の短いTシャツがわずかにあがり、彼女の白いお腹がチラリと見えた。


おっ♪ ラッキー♪


と、彼女がぼくの方に顔を向けた。


うっわ!やっべー!


どうやらぼくの視線を感じたようだ。かといって、別に裸を見たわけじゃないし、逆に彼女だって見られていたことがわかると余計に気持ちが悪いだろう。お互いのため(?)黙って立ち去る方が良し……と、判断したぼくは視線を外し、彼女の脇を通り過ぎた。

「あの……」

!?

なんと彼女が声をかけてきた。えーっ?ちょっと見てたくらいで文句言われるの?勘弁してくれよー…。ぼくは出来るだけ視線を合わせずに、下を向いたまま、ぼそぼそと話した。
「なんですか…?」
ぶっきらぼうに答えるぼくに、彼女は少し怯えたような声を出した。
「間違っていたらゴメンなさい」
「…だから…なんですか…?」
「ミユ…くん?」
「えっ?」
よほど近しい間柄でしか使われない、ぼくの愛称を彼女は口にした。そして彼女は下からぼくの瞳をのぞきこんだ。自然とぼくも彼女の瞳をのぞきこむことになった。決して大きくはないけれど、その黒目がちの瞳を見た瞬間、



大地が揺れた。



大きな津波が押し寄せて来た。



踏ん張っていないと、そのまま、波にさらわれて大海に放り出されてしまいそうだった。



頑張れ! 負けるな、堂本美勇起!



必死にその波と闘っているぼくを救おうとでもしたのか? 彼女は自分の右の掌を差し出した。その手の真ん中には紅い小さな花が咲いていた。

「憶えてる?」
彼女が不安気に言う。

ぼくはうなずいた。

この紅い花を忘れるわけがない。

だって彼女こそがぼくの…。

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この記事へのコメント

愛戦士桜@まだ病人
2007年03月16日 06:40
キターーーー!!!!o(^-^o)(o^-^)o
SHINE@携帯からデビュー
2007年03月16日 14:36
ごめんなちやい!その運命の彼女の事、忘れてる私っ!でも、愛の嵐の前触れという事は分かる!頑張れ!ミィ!男になるんだあー!←私もテンション上がっております!
Rain
2007年03月16日 22:00
愛戦士桜♪はーい!キチャッタヨ~(*^^)v
Rain
2007年03月16日 22:03
SHINE♪忘れてても全然、平気よ。むしろその方が楽しめるかも?よーく知ってる人でも、そうでない人でも、ドキドキハラハラできるような展開になっておりますから(笑)

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