硝子の少年たち 59 -Cross編-

ぼくの初恋の人だったから……。


彼女とはじめて逢ったのは、ぼくが中学一年の夏。叔父さんと一緒に別荘に滞在していたときだった。一週間目にして、やっと父から迎えに行くという連絡が入った。その後、母の入院している病院に寄って、堂本のおじいさまの家に向かうことになっていた。ぼくは父や母、堂本のおじい様とおばあ様にお土産を用意したいと思った。

「ツヨシさん、ぼく、海に行ってくる!」
「海って、ミユ、もうすぐコーイチ来るで?」
「すぐに戻るから!」
ぼくは自転車に飛び乗って、海までの道を一気に下った。そのまま砂浜に降りると、ぼくは貝殻を拾い集めた。白い巻き貝は父様に、黒くてごつごつした貝はおじい様に、口がギザギザの形をした紫の色をした貝はおばあ様に、そして、このいちばんきれいな桜貝、これは母様にあげよう。ぼくは掌の上の桜貝を見て、母の喜ぶ顔を想像して微笑んでいた。

その時だった。

「こんにちは」
いきなり声をかけられた。ぼくと同い年?いや、たぶん、ちょっと年上の女の子だった。貝殻を集めることに夢中で、そこに人がいるなんて全く気付かなかったので、とても驚いた。
「あ……こんにちは」
「このへんの子じゃないわね。旅行?」
「うん……」
「ふーん……あ、それ…?」
彼女はぼくの掌に顔を寄せて、桜貝を見た。ぼくと同じような色をした髪がさらさらと流れた。
「きれいねぇ……」
「……あげるよ」
つい、かっこつけて、言ってしまったけれど…「いらない」って言われたらどうしよう?だってきっと彼女は地元の中学生だろうから、こんなもの見慣れているに違いない…と、勢いで出た言葉をどう取り繕うかと思っていたら、
「いいの?ありがとう!ちょうどそんなのが欲しくて探しにきたところなの!」
彼女はものすごく喜んでくれた。うれしかった。
「はい。どうぞ」
ぼくは彼女のてのひらに桜貝をのせた。と、そこに紅い血が滲んでいた。
「大丈夫? ここ血が出てるよ」
「あぁ、これ? 生まれたときからある痣なの」
いけないことを聞いてしまった。痣や傷跡は男の子の勲章だ(と、父が言っていた)が、女の子には厄介なものにしかならない(と、おじい様が言っていた)。ところが彼女は全く気にする素振りも見せず、
「幸福の印なの」
とまで、言ってのけた。そんな彼女が、夏の強い光を反射する海を背に立っているせいだろうか、なんだかとてもまぶしくみえた。
「ねぇ。あなた名前、なんていうの?」
「えっ…?あ…うん…」
ぼくは自分の名前を言うのをためらった。
「あたしは、岡田麗菜。でもみんな、リーって呼ぶの」
「ぼくは…堂本…美勇起……」
「堂本…なに?」
「美勇起……」

ミユキっ?」 

彼女の声がオクターブ高くなった。やっぱりなぁ…。「女の子みたい」って思ったんだろうなぁ。あ~ぁ、もうなんだって父様はぼくにこんな名前をつけたんだろう!ぼくは恥ずかしくて、うつむいていた。
「素敵な名前」
「え?」
「素敵な名前って言ったの。それにあたし同じ名前した男の人、知ってるし」
「ほんとに!?」
ぼくと同じ名前を持つ男の人がいるって?ぼくはそのミユキなる人物に俄然、興味をひかれた。
「ね、どんな人?」
「頭が良くて、ピアノが上手で、それにね、男の人とは思えないくらい綺麗な人だったよ」
「だった…?」
「うん…あたしが小さいときにね、病気で死んじゃったんだって…その人の話しをはじめると、うちのママ、いつも泣いちゃうの…」
「そうなんだ……」
なんだか、またいけない話を聞いてしまった。どうしていつもこうなんだろう?ぼくは気落ちしていた。そんなぼくの様子を見て、なんとか元気付けようとしたのか、彼女はなお明るく弾んだ声で言った。

「そうだ!うちに来れば?」
「えっ!?」
「その人の写真、あったと思う」
「ほんとに?」
「うん。行こう♪」

彼女はぼくの手を取って歩き出した。ドキドキした。こんな風に女の子と手をつないで歩くなんてこと、それがはじめてだったから……。

砂浜にスニーカーが埋まって歩きにくかったけれど、それもまた、ぼくらを楽しませた。
ぼくのスニーカーがすっぽ抜けた時は、一緒に転び、砂まみれになった。ぼくらは大笑いした。手を離して歩けばいいものをどちらもそれをしようとしなかった。彼女の家に行って写真を見せてもらうことなんかより、今、この瞬間がたまらなく楽しかった。ずっと続いてほしいとさえ思った。

でも、そんな時間ほど早く終わってしまうものだ。

至福の時の終わりを告げるかのように、海岸沿いの道路から大きなクラクションの音が聞こえた。ぼくはその音を何度も聞いたことがある。ぼくの微妙な変化に彼女は何かを感じたようだ。
「どうかした?」
「うん……」
ぼくは道路の方に目を向けた。するとクラクションを鳴らした車から、黒いキャップにサングラスをかけた男性が降りてくるのが見えた。

ミユーっ!

男性は大きな声でぼくの名前を呼び、大きく手を振っていた。

「誰?」
「父様……」
父はサングラスを外し、ぼくと彼女の方を見ていた。ぼくはあわてて、つないでいた手を離した。
「ごめん…ぼく、今日、東京に帰るんだ。それで記念にと思って、ここで貝殻拾っていて…」
「やだ、ごめん! それじゃぁ、これ、返す…」
彼女はぼくのあげた桜貝を再び、ぼくの手に戻した。
「いいよ、これは、その…あの…」
ぼくはその時の気持ちを言葉にして伝えることが出来なかった。
「ここに来た思い出に…あたしからあげる」
彼女はぼくの伝えたかったこと、そのままを言葉にした。そしてぼくの瞳をじっと見た。ぼくも彼女の瞳を見た。決して大きくはないけれど、黒目が大きくて、吸い込まれそうな瞳だった。

「じゃぁね。バイバイ♪」

彼女は半ば魂を抜かれてしまったぼくに、赤い幸福の印のついた手を振って、そのまま浜辺を歩いて行ってしまった。



その後、二度と、彼女に逢うことはなかった。



だけど、この日以来、ぼくの胸の中に、この紅い花がひっそりと小さく咲き続けたことは言う間でもない……。


このお話しの元ネタは……

ブログ「愛のかたまり」内の「ボクの背中に羽根がある479」「ボクの背中には羽根がある480

で、どうぞ♪

★作者さんの了解のもと、こちらの都合で少々、脚色させていただきました★

Thank you SAKURA

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この記事へのコメント

愛戦士桜@ダメージ2000
2007年03月17日 11:45
ミユの淡い恋、いいね☆ふたり手を繋いで砂浜を走る姿は一枚の絵のように美しかっただろうねo(^-^)o今後の展開がとっても気になる~!
SHINE@携帯より
2007年03月17日 15:03
うん、うん。情景が綺麗に浮かんできます。この2人の恋の行方が気になります。邪魔者の影がかなり、いそうですね?あわわ!鬼さんなんて言ってませんってばあ!←でも何気に、嫌な予感
愛戦士桜@再び
2007年03月17日 21:27
お兄やん、黒いキャップにサングラスなんてカッコよすぎやo(^-^o)(o^-^)oキャーキャーキャー☆☆☆(笑)
けどやばかった場面でもあるよね、あのままミユがリーを連れてお兄やんに引き合わせたら・・・・とか思ったらちょっとゾクゾクしちゃった☆
Rain
2007年03月17日 21:54
SHINE♪二人の恋の行方?何しろこれを創っているのが私ですから。ひと筋縄ではいかないことは十分ご承知…だよね♪楽しみに(?)していて下さい。揺らします♪
Rain
2007年03月17日 22:04
愛戦士桜♪花の盛りの二人ですからね~♪お兄やん、かっこいいけど可愛いでしょ?何も知らずに「息子よ!父が来たぞ」って手を振ってる姿が(*^^)vミユの性格からして父に紹介は、この段階では出来ない(しない?)だろうなーと思いました。恥かしがり屋でしょ?お兄やん、(うれしくて)からかいそうだもん。もちろんこの後に「一緒におった子誰や~?」攻撃があったと思う。でも頑固者ミユは黙秘を通したでしょうね。言っても言わなくても………には違いないけど。
2007年03月19日 21:52
携帯から、チマチマ読んだりしながら…やっとここまで来たぁ…(^^;)
初恋かぁ…いいっすねぇ~♪ちょっとくすぐったいわぁ~♪
お父様…黒キャップにサングラス姿でご登場なのね…(笑)
分かる!「なかなか…可愛い子やないか?」なんつって…ミユをからかっただろうなぁ…って思った!
ここまで読んだけど、あの手紙は、まだ開けられてなかったのね。何なんだろうな。あの手紙…。
Rain
2007年03月20日 10:47
チビにゃん♪携帯だとなげぇ~でしょ?ゴメンネ(笑)でもうれしいよ、ありがと(*^^)v
別れた後、ミィはせつなくなっちゃったの。それで「あぁこれってもしかして?」と気づいたという(そういうことには鈍い子です)だから父様が一人ではしゃいでいるのが余計にうっとおしかったみたい(かわいそうな父様…)手紙ね♪これからもいろんな人が出てくるから、みんなで色々推理してみて(←謎)

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