硝子の少年たち 66 -Cross編-

ぼくはゆっくりと店の扉を開けた……。


その店の場所は確認してある。別荘に置いてあった電話帳でお店の番号を調べ、携帯で地図検索したら、こことそう離れていない場所(歩いてもゆける距離)だった。でも、そうすると何処にいったのか、すぐにバレそうだったので、カムフラージュのためにぼくは自転車を使った。

お店は林の中にあった。散策後、ひと息いれるのにはぴったりの場所だ。……と、ぼくは思うのだが、意外にも店の駐車場は湘南や横浜といった近隣区域のナンバーの車が停まっていた。ぼくは端っこの方に自転車を停め、窓から中の様子をうかがった。ブランチの時間帯だからなのか、混み合っているようだ。どうしようかな…と迷ったが、せっかく来たのだし、誘ったのは彼女の方だし…と自分に言い訳をし、飛び出しそうな胸を押さえ、ゆっくりと店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

の、声よりも先にコーヒーのいい香りがぼくを迎えた。少しドキドキが収まった。が、それも束の間、ぼくは店の中を見て愕然とした。そこにいた客が男ばっかりだったからだ。年齢は……そう30代から、40代くらいまでが最も多く、それより上の方もちらほら、いる。地域の集会でも開かれているのかな?と思ったが、それぞれがバラバラに座っているところを見ると、そうではないらしい。店の内装がおしゃれなものだけに、その光景はちょっと異様に見えた。そのうえ、客のほとんどが入ってきたぼくに敵対心剥き出しの視線を送ってくるのだった。ぼくは出来るだけ、その視線を受けなくて済む窓際の席を選び、彼らに背中を向けて座った。肝心のリーは……というと、まだ店に出ていないようだった。

「いらっしゃいませ」
と、お水を運んできたのは、ぼくの母よりは年上と思われる、だけど、とても若々しくて、それでいて、えーっと…その…成熟した大人の魅力を持った艶やかな女性だった。もしかしたら、この人が彼女の母親で、レミさんとかいう人かもしれない。

「あらっ、大変っ、ごめんなさいっ」

「へっ?あ…あれっ、うわっ!

女性に見惚れてしまっていたぼくは、テーブルの上で水の入ったコップが倒れていることに気づかなかった。
「……あぁ、どうしましょ? 濡れちゃった?」
ほんの少し、デニムが濃い色に変わっていた。
「あぁぁ、このくらいなら平気です。夏だから、すぐに乾くし」
それよりもぼくは手紙が濡れていないかどうかが心配だった。あわてて確認すると、本の表紙はちょっとだけ湿っていた。が、幸い手紙は無事だった。
「申し訳ありません。本、大丈夫でしたか?」
女性がとても心配そうに言うので、ぼくは、
「えぇ、大丈夫です。お気になさらないで下さい」
と、笑顔で答えた。
「……ル……?」
「え?」
女性が名前を呼んだような気がした。
「あ、いえ…あの、ご注文は?」
どうやら聞き違いだったようだ。ぼくはすっきりとした後味のアイスミントティーを頼んだ。

その女性がカウンターに戻ったと同時に、店にいた客の中で最も高齢だと思われる男性が話しかけてきた。
「失礼だが、君、おいくつになられるのかな?」
なんだろう?ここは未成年の入店は禁止されているのだろうか?まぁ、ぼくがどんなに大人ぶったとしても、顔や体のつくりから、とても成人男子には見えまい。ぼくは正直に答えることにした。

「15歳です」

じゅうごっ!?って、き、君っ……」

その人は絶句し、他の客は何やらざわつきはじめた。それでやっとわかった。ここに集まっている男性はみな、このサロンの女主人目当てだったのだ。どうやら、ぼくもそのひとりに思われているようだ。「若過ぎる」とか「しょせん子供」などと咎めたり、野次ったりしてはいるが、その言葉の端々に、ぼくの顔立ちや体つきへの羨望や嫉妬が入り混じっているのが薄々、感じられた。それは、うれしくもあったが、くすぐったくて、恥ずかしくて、一体どういう態度をとったらいいのかわからなかった。照れ隠しに、ぼくは持参した文庫本をパラパラとめくった。と、はさんであった手紙が床に落ちた。するといっせいにみんなの視線がそこに集まり、次にぼくの顔、そして女主人へと移った。

違う!違うよ!誤解だってば!


ぼくはこの手紙を女主人に渡すために来たのではないっ!
この手紙は逆にぼくがもらったものなんだよ!

……と、いうことをアピールするために、ぼくは手紙の封を切り、中の便箋を取り出した。

取り出してしまったのだから、やはりここは、読むべきだよね?

あぁ…まさか、こんなシチュエーションで生まれてはじめてもらった恋文を読むとは思わなかったよ。ごめんね、手紙の主さん……。

ぼくは彼らに背を向けて、その便箋に目を落とした。

封筒と同じ色の白い便箋に同じようにワープロの明朝体で打たれた文字が並んでいた。


拝啓 堂本美勇起 さま 


…………。


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この記事へのコメント

愛戦士桜
2007年03月30日 21:53
あーーー引っ張るねーー(笑)
でも やっとリーママ(今はあえてこう呼ぶね)に会えたね~でも 客層が・・・(爆)ジュンイチさん さぞかし心穏やかじゃないだろうね^^;
もも
2007年03月31日 22:40
おっと…まだまだまだまだわからない~♪
リーも気になるし、手紙の主さんも気になるし…ぐるぐる(@_@)ますますワクワクドキドキな予感がっ!!たのしぃー☆
Rain
2007年03月31日 23:49
愛戦士桜♪ジュンイチパパの大事なお店、閉めるわけにはいかないから、お店に出てるんだけど…。仕方ないね魔性の女だから(笑)さて、それじゃぁ、そろそろ雷鳴とどろかせるかね?
Rain
2007年03月31日 23:52
ももちゃん♪あせらなくても大丈夫よ。消したりしないから、じっくりついてきて。解析みてると過去もの見ている人もいらっしゃるし。
まだまだまだまだ?いいえ。いよいよです。

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