龍の涙・鏡の血51 怪の章(10)
それを合図に無数の矢が背後から放たれた。
ミラーはそれらをたくみに避けて走った。と、突然、片足を取られ、逆さになったまま、引き上げられた。
「うわわわわわぁぁっ!? 」
ミラーは仕掛けられた罠にはまってしまったのだ。
「ったく…!こんなもんがあるなら、あるって、言ってといてく…れ?」
木の幹に吊り下げられ、逆さまになったミラーの眼に信じられない光景が飛び込んできた。
顔を隠し、黒装束に身を固めた者数人が、こちらに向かって弓を構えていたのだ。
「何者だ!お前たちは!?」
だが、彼らは一切、言葉を発せず、きりきりと弓を引いた。ミラーは背負った矢に手を伸ばしたが、一本もなかった。逆さまに吊り上げられたときに全て地面に落ちてしまったようだ。
「くっそぉ……!」
ミラーは脇に差した小刀で足にからみついた縄を切ろうとした。と、断末魔の叫び声がミラーの耳に届いた。さきほどの黒装束の集団の方からだ。
「なんだ……あれは……!?」
成人男性二人分はゆうにあると思われるほど大きな蜥蜴に似た怪物が、その黒装束のひとりをその鋭い爪の前足でがっちりと押さえ、大きな口を開けていた。
「あれが……斑狩人(はんたー)……?」
「全員、退却っ!! 」
黒装束の集団は仲間のひとりが捕まっているというのに、斑狩人の姿を見るやいなや、逃げ去ってしまった。
「……薄情な奴らめ……」
ミラーは体を折りたたんで起こし、足についた縄をほどくと、枝へのぼり、上から様子を伺った。黒い皮膚に赤い斑点をつけた奴は、次の獲物を狙うためか、再び歩き出した。それは確実にミラーのいる方向だった。ミラーはぎりぎりまで待つことにした。ひきつけてから、斑狩人(はんたー)の頭を小刀で突き刺してやるつもりだった。
その大きな足音とミラーの鼓動が重なりはじめた。その音がぴたりと合ったとき、
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぃっ!」
ミラーは斑狩人(はんたー)の頭めがけて飛び降りた。
が、斑狩人の皮膚はぬめぬめとしていて、ミラーはそのまま、つるりと滑り落ちてしまった。斑狩人は、とまった虫を追い払うかのようにその尾を振った。長い尾は鞭のようにしなり、ミラーの体に打ち付けられた。
「くぅぅぅぅっ!」
地面に転がるミラーを見つけた斑狩人(はんたー)はぐわぁぁぁっと大きな口を開け、襲い掛かってきた。ミラーはとっさに背中の弓を取り、奴の口に縦に嵌め込んだ。
「!?」
斑狩人(はんたー)は首を振って、それを外そうとしていた。その隙にミラーは小刀を奴の腹めがけ、深く刺した。斑狩人が雄叫びをあげた。
「やった!」
ミラーは思った。が、ほぼ同時に頭上から、ぱらぱらと、木の破片が落ちてきた。
斑狩人(はんたー)はその強力な顎で弓を噛み砕いていたのだ。斑狩人は腹に小刀を突き立てたまま、再びミラーに向かって、口を開いた。ミラーの剥き出しになった肩にぽたりと斑狩人(はんたー)の涎が落ちた。
ミラーは凍りついた。
ミラーはそれらをたくみに避けて走った。と、突然、片足を取られ、逆さになったまま、引き上げられた。
「うわわわわわぁぁっ!? 」
ミラーは仕掛けられた罠にはまってしまったのだ。
「ったく…!こんなもんがあるなら、あるって、言ってといてく…れ?」
木の幹に吊り下げられ、逆さまになったミラーの眼に信じられない光景が飛び込んできた。
顔を隠し、黒装束に身を固めた者数人が、こちらに向かって弓を構えていたのだ。
「何者だ!お前たちは!?」
だが、彼らは一切、言葉を発せず、きりきりと弓を引いた。ミラーは背負った矢に手を伸ばしたが、一本もなかった。逆さまに吊り上げられたときに全て地面に落ちてしまったようだ。
「くっそぉ……!」
ミラーは脇に差した小刀で足にからみついた縄を切ろうとした。と、断末魔の叫び声がミラーの耳に届いた。さきほどの黒装束の集団の方からだ。
「なんだ……あれは……!?」
成人男性二人分はゆうにあると思われるほど大きな蜥蜴に似た怪物が、その黒装束のひとりをその鋭い爪の前足でがっちりと押さえ、大きな口を開けていた。
「あれが……斑狩人(はんたー)……?」
「全員、退却っ!! 」
黒装束の集団は仲間のひとりが捕まっているというのに、斑狩人の姿を見るやいなや、逃げ去ってしまった。
「……薄情な奴らめ……」
ミラーは体を折りたたんで起こし、足についた縄をほどくと、枝へのぼり、上から様子を伺った。黒い皮膚に赤い斑点をつけた奴は、次の獲物を狙うためか、再び歩き出した。それは確実にミラーのいる方向だった。ミラーはぎりぎりまで待つことにした。ひきつけてから、斑狩人(はんたー)の頭を小刀で突き刺してやるつもりだった。
その大きな足音とミラーの鼓動が重なりはじめた。その音がぴたりと合ったとき、
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぃっ!」
ミラーは斑狩人(はんたー)の頭めがけて飛び降りた。
が、斑狩人の皮膚はぬめぬめとしていて、ミラーはそのまま、つるりと滑り落ちてしまった。斑狩人は、とまった虫を追い払うかのようにその尾を振った。長い尾は鞭のようにしなり、ミラーの体に打ち付けられた。
「くぅぅぅぅっ!」
地面に転がるミラーを見つけた斑狩人(はんたー)はぐわぁぁぁっと大きな口を開け、襲い掛かってきた。ミラーはとっさに背中の弓を取り、奴の口に縦に嵌め込んだ。
「!?」
斑狩人(はんたー)は首を振って、それを外そうとしていた。その隙にミラーは小刀を奴の腹めがけ、深く刺した。斑狩人が雄叫びをあげた。
「やった!」
ミラーは思った。が、ほぼ同時に頭上から、ぱらぱらと、木の破片が落ちてきた。
斑狩人(はんたー)はその強力な顎で弓を噛み砕いていたのだ。斑狩人は腹に小刀を突き立てたまま、再びミラーに向かって、口を開いた。ミラーの剥き出しになった肩にぽたりと斑狩人(はんたー)の涎が落ちた。
ミラーは凍りついた。
この記事へのコメント
ろくな武器も持ってないのにどうすんねんやろう?
逆さまになった時に矢を全部落としちゃったのが悔やまれるね(-_-;)
まさか自分がさかさまになるなんて予想外だったね…^^;弓も壊されちゃったし、小刀しか武器がないのに丸腰状態ではさすがのミラーもビビるよね。
ふたりが到着するまでがんばって!!!!!
でも…ろくな武器を持ってないミラー様には、そのはんたーを倒すことが難しそう…(^-^;
大丈夫かな…。もう~ヒヤヒヤするぅ~っ!!
やっぱり、はんたーは恐ろしかぁ~!
自信過剰気味…ともいう(笑)って、笑って場合じゃないんだよー!ミラーさんちょいびびってます!
ひとりできてしまったこと、ちょっと悔やんでいるかもしれない。でも、今はそれすらも考えられない!
ミラーさん、頭、真っ白ですがなー!
同時に出てくるなんて、それは虫がいい話。
裏があると見た。
黒装束の集団のほうが気になるなぁ。
ミラーさま。さすがに一人では戦えない?
ヒーローになるって難しい!彼も気付いたはず。これまでも自分だけの力で勝ってきたのではないことに。
ご自分の命が危うい時に「……薄情な奴らめ……」って。お茶目で、豪快。このキャラに惚れ惚れしちゃった。確かに彼なら、部下を見殺しにしたりしないですよね。
コメントを読んでて「!」って思ったんだけど、斑狩人(はんたー)を操る者がいるって事ですか?そうだとしたら、それこそが真の敵?
上橋菜穂子著「獣の奏者」って本をちょっと思い出した。
…にしても。ぬめぬめしてて黒い皮膚に赤い斑点って。自然界にそんな怪物がいる???