龍の涙・鏡の血54 怪の章(13)

剛龍、ミラー、蛇良の三人は、犠牲になった黒装束の遺体と斑狩人をそれぞれ埋葬した。


黒装束の者については、剛龍がごく簡単ではあるが弔いの儀式を執り行い、故人の冥福を祈った。その後、三人は河原へ向かい、体を洗った。ミラーは、全身に返り血を浴びており、洗い流すたびに、彼の周りの水は紅く染まった。

「なんだか……まるでミラー様が大怪我したみたいですね」
蛇良がミラーの血に染まった服を見て、顔をしかめながら言った。
「髪や体はなんとか落ちたけど、服についたものはどうしようもないな」
「全部、脱いじまえば?」
「着替えは?」
「……森に行って、葉っぱでも持ってきましょうか?」

「あぁ、たのむよ……って、そんな格好できるかっ! 」

ミラーは蛇良の顔に川の水をかけた。

あにすんだぉー! 」

蛇良もお返しとばかりにミラーに向かって、水をかけた。二人は水をかけ合い、子供のようにはしゃいでいた。そんな中、剛龍だけがなぜかすっきりしないものを感じていた。

黒装束の者の遺体は損傷が激しく、身元を確かめることは出来なかった。だが、これまでに医師として、この国の人間の体を診てきた剛龍には、それが龍の国の出身ではないことだけはわかった。骨格や皮膚の感触からみると、龍の国の人間というよりも、むしろ……。

「剛龍?」
ミラーが剛龍の肩をたたいた。
「ん?あ、あぁ…何や?どうした?」
「それはこっちの台詞。どうした?さっきからぼーっとして?」
「いや……何でもない…」
「ただ、何だ?」
「ちょっと無茶したかなぁ…って思って」
すまん、剛龍!ひとりでやる!なんて大きな口をたたきながら、結局はお前や蛇良まで巻き込んでしまった。何か沙汰があるなら私ひとりで受ける。その覚悟は出来ている」
「何いってるんすか!剛龍さまもミラー様も、命を懸けて斑狩人を退治したんですよ? 感謝こそすれ、お沙汰だなんて、そんなことしたら俺が黙っちゃいねぇ!」
「ミラー、それに蛇良も、心配はいらんよ。沙汰といっても小言程度やろう。形だけでもそうしないと、面目がたたんからな」
そして彼らは城への道を戻った。

蛇良は自分の馬と、ミラーの馬を引いて帰った。剛龍はミラーのたっての希望で、ふたりで艶鳥蹴狗の背に乗り、空中散歩をしながら帰ることになった。
ふたりは上半分が藍色で下半分が橙色の空のちょうど中間あたりを飛んでいた。

「みろよ、蛇良があんなに小さく見える…あ、あいつは元々か…」
「それ蛇良の前で言うなよ?」
「へへへ…しかし…ほんとに…こうして天から見ると、人間とはなんと小さな生き物なんだろうな」
「そうやな……」
「………なぁ剛龍」
「ん?」
「…お前、さっき……あの黒装束の者のことを考えていたのであろう」
「…………」
「お前が気にやむことはない。私の存在をよく思わないものがいることは、最初からわかっていた。これまで何事もなく過ごしてこれたのは、お前や蛇良が守ってくれていたからだ」
「…………ミラー…」
「あん?」
「これだけは信じてくれ」
「何?」
「あの暗殺集団を放ったのは私や、むろん、蛇良ではない」
「…………」
ミラーが急に黙り込んだので、剛龍は恐る恐る振り向いた。すると、ミラーは目を大きく見開き、口も何かいいたげに開いていた。
「ミラー…?」
「……そっか…そういうこともある…のか…」
「えっ…?…あ、いや!ない!ないないないない!そんなこと、ないから、絶対に!」
「いやいや、違うんだ。そんなこと考えもしなかった自分に驚いているんだ」

それどころか、自分を庇ったことで剛龍の立場が悪くなってしまうのでは?とさえ考えていた。他人を信じることや、自分よりも誰かのことを大事に思うなど、ただの一度もなかったのに、それがごく当たり前のように感じている自分の変化に戸惑っていたのだ。

「剛龍……」
「何や?」

こういうときの気持ちをどういう言葉で表現すればよいのだろう。なんとなく、わかっているのに、それが出てこない。

「……いや、なんでもない」
「……さよか……」

でも、たぶん、剛龍には伝わっている。
それもなんとなく、わかっていた。

通じ合うというのは、こういうものなのだろうか?

それは空を飛んでいる感覚と似ているかもしれない……。

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この記事へのコメント

WAO
2007年12月04日 07:57
凄い闘いやったよね…3人ともお疲れ様…
それにしても、黒装束の奴らはどこの者なんやろうね?
剛龍の見たところ、龍の国の者では無いような感じやったけど。
斑狩人をやっつけたけど、何か処分があるような感じやね。
軽くて済むといいけど…
愛戦士桜
2007年12月04日 14:18
いやーほんとにすごい戦いだったね。
ミラー王子、自分で傷つけたとこに斑狩人の血とか浴びちゃって大丈夫なんかな(変な心配をしている桜)汗
とにかくこれで龍の国のみんなも安心して暮らせるね。
艶鳥蹴狗の背に乗る2人…絵になるね~(王子の衣裳は血に染まってしまっているけど)

黒いやつらも気がかりだし、まだまだ悩みはつきないね…でも、ともかくも3人ともお疲れ様でした★
仲良しさんの王子と蛇良も別れがたくなってきちゃったね。(胡蝶も剛龍さま同様、妬いちゃうんでない?)
Rain
2007年12月04日 19:56
WAO★めでたしめでたし♪にしない、ならないのがRainの物語(笑)このお話はね、ギリシャ神話…(なんて、たいそうなものではないが)みたいなものを書きたい&あるシーンを描きたくてはじめたものなんだ。なお、そのあるシーンは、まだ出てきていません~♪
Rain
2007年12月04日 20:01
愛戦士桜★このシーンは私も楽しんで(!?)描きました。目的が見えているから、そこに向かってすすむだけだもん。やっぱ気持ちが揺れ動いたり、葛藤したりするシーンはしんどい。難しい。ほんとだよね。ミラー王子、蛇良も胡蝶もなんて、欲張り!ふふふ、ここんとこは後ほど~♪
↑追加
2007年12月04日 20:02
そのへんがわかってくれたこと、うれしいっす!
2007年12月09日 14:58
周回遅れは、いつものこと?なてるひですが、葉っぱだけまとったミラー様を想像して、気絶しそうになっちゃいました。それは、さておき。
暗殺集団を放ったのは、自分でも蛇良でもない
そうミラー王子に話した剛龍さまの真意(?)を考えました。その集団が何者なのか…剛龍さまには、わかってるのかな。
そして。誰かを信じ、守りたいと思う。ミラー王子の劇的な心の変化は、王子自身はもちろん、剛龍さまの予想もはるかに超えてたって事ですよね。
守りたいと思うことは、心を強くもするけれど、油断も生む。ふたりの心が通じ合う事が、さらなる危険を呼び込みそうですよね。
Rain
2007年12月09日 15:53
てるひちゃん★年内アップできたらな~と思っているので、ややペースアップしちゃってます。剛龍さま、彼を不安にさせたくないという思いが強かったようです。何者か…まだ確証が持てないため、多くを語れないようです。ねぇ…なんで私はめでたしめでたしを書かないんだろう?この物語で年を締めくくるのが申し訳なくなってきた。ま、いっか。それも私らしい(笑)

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