龍の涙・鏡の血55 怪の章(14)

「剛龍さまがお戻りになられたぞ!」


城門をくぐり、艶鳥蹴狗から降りたとたん、剛龍とミラーは大勢の官僚や女官に囲まれた。
「剛龍さま、よくぞご無事で!」
「剛龍さま、お怪我はございませんか?」
「剛龍さま、お疲れでしょう…」

が、

兄上! 」

ひときわ高く響いたその声に、剛龍たちを取り囲んでいた官僚たちは、すぐに道を空けた。
「胡蝶!」
「兄上……お帰りなさいませ」
「うん……ただいま」
「ご無事で何よりです」
「あぁ……それもこれも、ミラー殿のおかげだ」
剛龍は後ろにいるミラーの腕を引いた。
「いやいやいや、何を言う。剛龍が矢を放ってくれなかったら、俺は今頃、奴の腹の中だ。何しろ奴のでかい口がもうすぐそこにあって、肩の上によだれが落ちてきたときは生きた心地がしな……痛ぇっ!?」
剛龍がミラーの手をつねっていた。
そういうこと聞きたいんやのうて…」
「……?」
胡蝶がきゅっと唇を噛み、ミラーを睨みつけていた。だが、その唇は震え、そのふたつの瞳は揺れていた。
「あ、えっと…あっ…その…これは奴の血で、俺の血じゃないから。がーっと切り裂いたときにドバーっと返り血を浴び……?」

ばかぁぁぁぁぁぁっ!!!! 」

胡蝶はそう叫ぶと、くるりと背を向けて、走って行ってしまった。
「……なぁ剛龍…俺……今……ばかって言われた?」
「……そのようやなぁ……」
「そんなこと言ったって、だって、その……」
「まぁーとにかく、湯につかって、汗を流して、出直そうや、な?」
「………はい………」
ミラーは素直に剛龍の後をついて行った。

ふたりは湯につかり、戦いの疲れを流した。ミラーはそこではじめて、剛龍の体半分を覆う鱗を見た。顔にある鱗はすでに剛龍の一部としてミラーの意識に取り込まれており、気になることはなかった。が、こうして、裸の肩や背中、腕についたものを目にすると、やはり、どうしても見てしまう。おまけに剛龍の鱗は水の中で、きらきらと光り、その美しさに目を奪われてしまう。とはいうものの、不躾な視線を送るのは品がない。

「ミラー」
「んっ?」
「好きなだけ見たらえぇ」

えっ!?

「ほかのとこはあかんけど、鱗ならなんぼでも見せたるで、」
「ほ、ほかのとこって、そっ、そっ、そんな趣味はないっ!」
「冗談やって。ほんま、お前は素直というか、わかりやすいというか…よく、そんなんであの国の王子が務まっとったなぁ?」
「実際に国を動かしていたのは俺じゃないからな……」
「戦場にばーっかり出て、国を留守にしているからやろ?」
「くーっ!厳しいところを突いてくるなー」
「んふふふ♪」
「仕方なかったんだよ…」
「え?」
「俺は……そこでしか生きることが出来なかったから……」
「………」
「……いつも何かに追われ、怯え、そういうものから逃れるために、自分で自分を奮い立たせ、追い込む必要があった……戦場はそうさせるのにぴったりの場所だった」
「国に戻れば、また同じことの繰り返しになるんか…?」
「……たぶん…な……」
何かに追われ、怯える。それが、自分にはめられた枷なのだ。
「だが…」
「だが?」
それを外そう、そこから逃げようとすればするほど、その枷は重くなり、きつく絞まるのだ。ならば、それを受け入れ、その枷の中で出来ることを精一杯すればよい。外れることはなくとも、いくらかは楽になるだろう。
「戦場には二度とゆかない。自分を奮い立たせ、追い込むのは、他の場所でも出来ることだ」
「……ミラー」
「んっ?」
「えぇ国、つくってくれな?」
「…あぁ…」

ふたりの王子の瞳ははるか未来へと向けられていた。

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この記事へのコメント

愛戦士桜
2007年12月04日 21:39
うがぁああああああーーー!(心の絶叫)
剛龍さまの…裸体……うろこがキラキラと……あーなんて眩しい……(壊)
ってそこちゃう!!!!
胡蝶の気持ちに全然気づかないミラー王子(爆)
もう戦場には出ないと言ってるけど…まわりがそれを許してくれないかもね……湯殿の外で大臣たちが手ぐすね引いて待ってる?(汗)
2007年12月04日 22:20
二人で湯につかり?鱗キラキラ?好きなだけ見たらえぇ?ほかのとこはあかんけど…?うふっ♪
…( ̄~ ̄;)はぁい…そこまでにしまぁす…(笑)
はんたーを倒し、ご無事でようございました(TT)
この国に来てから、ミラー様のお心もずいぶん変わられましたね。
「ばかぁ~!」と言った胡蝶さまの気持ちに気づかぬ鈍感さは相変わらずですが、そこもミラー様の可愛いところでございます…(笑)
二人の王子が描く未来が実現するといいですなぁ。
SHINE
2007年12月06日 17:19
とにもかくにも、皆様、ご無事で良かった♪
胡蝶の想い・・・ミラーさま疎いからねぇ?
戦場で生きるものには愛だ恋だなんて無縁のものだったろうから。
それも、これからは分からないよね?
自国では、今。ミラーがいないとなると、どういう思惑が蠢いているかが気になるところだけど、剛龍さまの仰るとおり、えぇ国作ろう!頼朝さんだね♪
Rain
2007年12月06日 20:28
愛戦士桜★うひゃひゃひゃひゃ(壊)どんな物語でも必ずいれる、ふたりの入浴シーン…って、これが描きたいシーンではないからね!湯殿の外ではね、びっくりするもの(?)が待ってるよ~♪現在、最終章に入ろうとしています。筆がとまっています(焦)年内にクランクアップ迎えられるのだろうか(ーー;)…?
Rain
2007年12月06日 20:33
チビにゃん★お約束の入浴シーン(って水●黄●かいっ!)です♪そこ!そこなんですー!「持ったことのない感情を抱くようになった」その瞬間を描こうと長々と書き連ねています。その最高の瞬間は…まだですけど(笑)ミラーさん、照れてるだけかもよ~♪
Rain
2007年12月06日 20:38
SHINE★不器用な男ですしね(笑)その感情が何を呼ぶか、どう影響するのか…まだ誰にもわからない~♪
舵取りは王子たちの仕事だけど、あくまでも国の主役は国民だからねー。彼らの声は重要です。…って日本のお役人さんにも伝えてくれ!

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