龍の涙・鏡の血56 怪の章(15)

ふたりが湯からあがると、剛龍の部屋に何やら荷物が運び込まれていた。


木で作られた箱や、周りに布を貼った化粧箱など様々なものであった。
「これは…なんだ?」
剛龍は運びこまれた荷の番をしている小姓に尋ねた。
「鏡の国からのお届け物にございます」
「鏡の国?」
剛龍とミラーは顔を見合わせた。と、そこに外務大臣が入ってきた。
「剛龍王子。先ほど東の国を経由し、鏡の国からの書面と、このような荷物がたくさん届きました。ここに運び込んだものは、すべてミラー殿のお名前が記されたものです」
その書面には鏡の国の王子であるミラーの救命、そして保護に関しての礼が述べられていた。送り届けた荷物は龍の国への感謝の気持ちを込めたもので、是非受け取って欲しいということだ。中味は名産品である葡萄酒、ジャムの他、宝飾品なども送ったようだ。
そして最後に、「某月某日、○時、Φ峠中腹で、ミラーを引き渡して欲しい」との旨が国王の名で書かれていた。
「Φ峠とは…?」
ミラーは剛龍に尋ねた。
「龍の国と隣国、K国との境にある峠で、どこの領土にも属していない場所なんや」
「ここからはどのくらいで行ける?」
「そうやなぁ…馬で…数時間…と、いったところか?」
「そこまで出て来いというのか?なんという無礼なことを!……すまない、剛龍。本来なら、鏡の国がこちらへ出向くのが筋だというのに、やはり、どうしてもまだ鏡の国の人間はここへ足を踏み入れるのをためらっているようだ。私が国へ戻ったら、すぐにその誤解をとくようにつとめる。どうか今は私に免じて、許してくれ」
「ま、じっくり気長につきあってこーや。な?……なぁ、それより、これは一体、何が入っとるんや? えらい豪勢な箱やで?」
ミラーは剛龍付きの小姓たちの手を借りて、箱を開けていった。

一つ目の箱には下着や靴下など、こまごまとしたものが、ふたつ目の箱には平服、三つ目の箱には軍服と正装がひと揃え、四つ目には靴が、そして五つ目の箱には短剣と長剣がひと組ずつ入っていた。
「外遊に出るときの支度箱を一式、そのまま送ってきたようだ。まったく芸のない…」
「いや、しかし、さすが大国鏡の国。見ろ、この正装の豪華なこと?」
正装とはいっても訪問先で行われる歓迎の会などで着用するものであったため、儀式用とは違い、華やかなものが入っていた。長い丈の上衣は明るい水色で、襟元、袖口、裾には金糸の縁取りがされている。中に着るブラウスはもちろん絹で、純白の豪勢なレースがふんだんにあしらわれていた。
「な、着てみて」
「え…今?」
「せっかくやもん。なぁ?みんなも異国の服とは、どういうものか、見てみたいやろ?」
「はい!」
小姓たちが声を揃えて返事をした。ミラーは湯あがりに着ていたバスローブとよく似た木綿の服を脱ぎ、絹のブラウスに袖を通した。するりと体を滑る感触がひどく懐かしかった。体型に変化はなかったようで、細身のズボンも心配なく入った。上衣を身につけ、靴を履くと、小姓たちの間から、感嘆の声があがった。
「……ま、まぁ…こんな感じで…外遊先の舞踏会などに出るわけだ…」
ミラーはダンスのステップを踏んでみせた。軽やかに足が動くたびに、裾がひらりと返り、鮮やかな萌黄色の裏地が見えた。

と、そこに、

剛龍さま! 

蛇良が勢いよく飛び込んできた。

「おぉっ!蛇良!お、お帰り…」
「……?……ミラー…殿ですか?」
「そう…だけど?」

えぇぇぇぇぇっ!?何、どうしたんすか?孔雀みたいな格好して?」

孔雀っ!?

「あ、いや、だって、ねぇ?剛龍さまもそう思われませんか?」
「蛇良、こ、これはな…鏡の国の王子の正装なのだよ」
剛龍は笑いをかみ殺しながら、言った。
「げっ…そ、そうだったんですか……」
「着ない!もう二度と着ない!今すぐ脱ぐっ!」
ミラーは上着に手をかけた。
「あーっ!と、待って下さい!それを脱ぐ前に、ちょっとだけ、よろしいですか?」
蛇良は部屋の中をすすみ、掃きだしの窓へと向かった。

簾を上げ、引き窓を開くと、外からたくさんの声が聞こえてきた。

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この記事へのコメント

WAO
2007年12月06日 23:49
「この龍を 合図されたる 荷物かも」…ドーモトくんが久々に詠みました。意味わからんけど(汗)

ミラーが鏡の国に帰る日が近づいて来てますね…果たして穏便に事は進むんやろうか?ミラー、剛龍、蛇良達が仲良くなったのにさよならとはさみしいね…
愛戦士桜
2007年12月07日 11:47
フリフリ、キラキラの衣裳をまとったミラー王子。
さぞかし素敵なんだろうな。
外にはきっとハンターを退治した英雄の姿を一目みようとみんな集まってるんでない?それなのに ちらりと桜はあのバルコニーに立つマリーアントワネットの1場面をなぜかかすめました(大衆の前で一礼して王妃を誇示したあれね)←特に意味はなし。
ミラー王子と剛龍さまのふたりが鏡の国と龍の国を結ぶ架け橋になれるんかな…名ばかりの国王の名が記された手紙。ミラーのおとんはミラーがいなくなって元気にしとるんかな。ますますひきこもっておられるのでは…といろいろ思いながら読みましたー。蛇良、孔雀みたいな格好って…(笑)王子の王道じゃん!!!!!
2007年12月07日 19:15
鏡の国と龍の国との国交が上手くいくといいね?
孔雀のようなミラーさま。。。よろしいんじゃなくて?
私たちの王子にすれば普通よね?(笑)
Rain
2007年12月07日 20:36
WAO★ドーモト俳句ゲットありがと♪剛さんの詞以上に難解?(笑)出逢いがあるから別れがある。まさにそれだよね。彼らにとっての別れ…それはお互いに何をもたらすのだろう…?
Rain
2007年12月07日 20:40
愛戦士桜★んふふ♪私の頭の中にもそのシーンが浮かんでたのよ。第57話をお楽しみ下さい♪ミラーのおとん、どんな状況にあるんかねー?今は~内緒!
剛龍さまはフリフリブラウスに、鮮やかな水色の服なんてお召しになったことないからね(笑)いつも渋めのご衣裳だから、蛇良、びっくり\(◎o◎)/!
Rain
2007年12月07日 20:43
SHINE★国同士が友好関係を結ぶって本当に難しい。
個人レベルでは出来ることも政治がからむと、ややこしくなるんだよね。ミラー、和名は孔雀王?鏡の国では普通でも龍の国では「なんと華やかな!」になってしまうのねー。異文化ショック?(笑)
2007年12月09日 21:34
どこにも属さないΦ峠(笑)中立地帯ってことですね。黒装束の集団も、そこで非道な振る舞いはできないとは思うけど、大丈夫かな…
鏡の国って。ミラー王子には申し訳ないけど、慇懃無礼ですよね。剛龍様じゃないけど、ミラー王子に「えぇ国」にしてもらわないと。
ミラー王子は白が似合うんだろうな。…にしても、ほんとかわいい人だよね。蛇良に孔雀と言われて、もう着ない…なんてね。
孔雀(笑)なミラー王子の姿を見たら、胡蝶さまはどう思うんだろう。てるひだったら、似合いすぎの衣装にうっとりしながらも、寂しい気持ちに襲われるだろうな。
Rain
2007年12月10日 18:45
てるひちゃん★うへへ(笑)ツッコミΦ、ありがとう♪
いや、ミラー自身も思ってるよ。礼儀知らずの国だって。でもそんな国を創ってしまった責任の一端は自分にもある。だからこそ、別れるのは辛いけど一刻も早く国へ戻って、建て直したい…。ミラーは早い話が子供なんだよね(笑)孔雀王の姿みたら、より遠い人に感じるだろうね。たとえ彼はそう思っていなくても。

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