龍の涙・鏡の血57 怪の章(16)

「民が大勢、集まってきております」


「何!?」
「みな、おふたりにお礼を申し上げたいそうです」
「斑狩人を退治したことのか…?」
「はい!」
「…では…ミラー…先に…」
「何を言っている!ここはお前の国だろう?まずはこの国の王子が先に姿を見せるべきだろう?」
「いや、でも俺、まだ、こんな格好やし……」
「おい、そこの小姓っ!剛龍に上着を!」
ミラーに言われ、小姓はあわてて衣服を用意した。

剛龍は臙脂色の上衣をはおり外へ出た。剛龍が姿を現すと、それまでの騒々しさが嘘のように静まった。そして全員が胸の前で手を合わせ、剛龍に向かって深く頭を下げた。
「ミラー殿、こちらへ」
剛龍はミラーを呼んだ。
「えっ?いや、俺は…いいよ…」
「にっこり笑って、手を振るだけでいいんだよっ!ほれっ!」
蛇良がミラーを押し出した。

わぁっ!とっとととと… 」

転がるようにミラーが出てくると、民からはわぁっという声があがった。だが、そのあとが続かない。異国の王子に対し、どのようにふるまえば良いのかとまどっているようだ。しかし彼らの想いは十分、ミラーに伝わっていた。
ミラーはその声に応えようと、右手をあげ、その手を胸にあててお辞儀をした。龍の国の民はそのあまりの高貴さに圧倒され、ただただ、ミラーを見上げるばかりだった。
と、ミラーの背後から大きな拍手と「ミラー万歳!」の声があがった。拍手は剛龍で、声の主は蛇良だった。するとそれまで湖のように静かだった民の間から、地鳴りのような声と拍手が沸き起こった。
民の持つエネルギーがミラーにぶつかってきた。ミラーはその力に押され、立っているのがやっとだった。人の力というのは、こんなにも強く、熱いものだったのだ。これをひとつにまとめることが出来れば、国は大きく変わる。変えてゆける。そうすることの出来る指導者にならねばと、ミラーは鳴り止まない拍手と声の中で、強く思っていた。

その夜。急拵えではあったが、城内で剛龍とミラー、そして蛇良の無事の帰還を祝う宴席が設けられた。鏡の国からの贈り物である葡萄酒が開けられ、はじめて口にする果実酒にみな、心地よく酔っていた。
胡蝶も、もちろん出席していた。祝いの席にふさわしく、薄桃色の着物に花模様の襟を重ね、若草色の袴を合わせ、華やかな装いに身を包んでいる。三人が怪物退治に向かったと聞いたとき、胡蝶が真っ先に無事を祈ったのは、実の兄でも、幼馴染の蛇良でもなく、異国の王子の身であった。彼が帰ってくるまでの間は生きた心地すらしなかった。無事の帰還を耳にしたときは、しばらく立ち上がることが出来なかった。彼の姿を目にし、声を耳にしたとき、どれほどうれしかったか…。だが、そこは公の場、駆け寄りたい気持ち抑え、涙をこらえるだけで精一杯だった。ところが彼はそんな気持ちも知らずに、平気な顔をして武勇伝を語る。どうしてわかってくれないのだろうという苛立ちと、生還の喜びとが混ざり、言葉が見つからず、やっと出たのが「ばか!」だった。もし、これが公式行事だったら、たとえ皇女といえどもなんらかの処罰が降っていたに違いない。感情が昂ぶっていたとはいえ、失礼なふるまいをしてしまった。きちんとミラーに謝り、功労に対して礼を述べようと思っていた。

だが、上座にいる剛龍とミラーの元には、入れ替わり立ち代り、閣僚らが訪れ酒を交わしており、なかなか近づけなかった。また胡蝶自身も大勢の閣僚から、声をかけられ、足止めされていた。なんとかきり上げ、剛龍とミラーのふたりだけになった瞬間を狙って、足を向けたとたん、

ミラーぁぁぁぁぁっ! 」

と、赤い顔をした蛇良が恐れ多くも鏡の国の王子を呼び捨てにし、風のような速さで、彼のもとへ向かって行った。

当分、解放されないわね……。

胡蝶は大きくため息をつくと、そっと、その部屋を出た。

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この記事へのコメント

2007年12月07日 21:20
異国の王子の大活躍に民衆は、狂喜乱舞。
すさまじいねぇ?
そこにきて胡蝶の想いは、いまだ届かず。。。
この恋の行方も国交と同じように、難しい???
愛戦士桜@携帯からだよん
2007年12月07日 22:11
ミラー王子、国中の民たちに受入れて貰えて感激だね。
桜の描いたとおりの場面で今も頭の中で大きなスクリーン一杯に大観衆をバルコニーから見下ろすミラーと剛龍さまが見えてるよo(≧∀≦)oああ、なんて壮大な☆素晴らしい!
胡蝶もミラーと言葉を交わしたいね…せっかくの正装も見てもらいたいよね。
2007年12月08日 21:49
民の声に応えるミラー様のお姿…あぁ~神々しやぁ~(笑)
二人とも、さすがは王子ですなぁ。堂々としてらっしゃいます!素敵♪
胡蝶さま…なかなかミラー様のお傍に行けないね。
でも「ばぁか!」なんて言われちゃったし、きっとミラー様も気にしてんじゃないのん?
2007年12月09日 21:47
胡蝶さま、いつの間に…剛龍さまよりミラー王子の身を案ずるようになってたの?(笑)
ミラー王子は、女性に関しては不器用すぎですよね。Φ峠で両国に条約でも結ばれて、行き来できるようになれば、それにこしたことはないけど、鏡の国のことが、イマイチ信じられないからなぁ。
でも。ひとりひとりは小さくても、集まった時の民のエネルギーの大きさ、崇高さを知ったミラー王子は、きっと良き王になれるはず…なのに。
Rain
2007年12月10日 18:49
SHINE★いつもありがと♪恋の行方。国交のように間に誰かをたてると、ややこしくなることが多いしね(笑)
自分の力だけでなんとかしなくちゃいけない。だから恋は人を成長させるのよね♪
Rain
2007年12月10日 18:51
愛戦士桜★まさにあの場面ですわ~(^^♪まぁ、コンサート会場にいる我々とKinKiの図でもありますが♪
そうなんだよーせっかく、孔雀王(笑)のために、きれいきれいにしてきたのにねぇ?これもコンサートに行くときの我々の図でございますなぁ(笑)
Rain
2007年12月10日 18:54
チビにゃん★アリーナから見上げる彼らの図ですな。
彼らも表現しているときは、堂々としているし、神がかっているもんね。好きな人のそばほど、近寄れなくない?わざと遠回りしちゃったり…。ふたりとも照れやで意地っ張りだからねー。誰かきっかけ作って~♪
Rain
2007年12月10日 18:58
てるひちゃん★剛龍さまや蛇良が聞いたら、泣いちゃうよね(笑)そうなの。ひとりひとりの力は小さくても集まったときの力は計り知れない。良しにつけ悪しきにつけ、その力は流れを変えてゆくもの…だよね?
時代を動かすのは実のところ、ひとりの英雄ではなく、その他大勢なのでは…?と思います。

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