龍の涙・鏡の血58 怪の章(17)

宴が終わると、ミラーは急いで自室へと戻った。

そしてテーブルの上に積み上げられた古い書物を再び、開いた。
「誓いの夜……誓いの夜って……何だ?どういう夜だ?」
夜というのだから、この闇の中で何かを誓うのだろう。それは何に?月か?
だが今夜は新月にあたっており、月はその姿を隠してしまっている。ならば星か?
だが今夜は夜空に雲がかかっているようで、星も見えない。
そんな夜でも「誓いの夜」というのか…?ミラーは片っ端から書物を調べていった。そして祭りや儀式について書かれたものの中に、やっと、その夜についての記述を見つけた。

「誓いの夜」とは新月にあたる夜のことを言う。この夜は月がその姿を隠すことから、やきもちやきの月の女神の不在をあらわす。したがって、この日はどれだけ愛をささやいても、交わしても、月の女神の嫉妬を受けることがない…

俗的にいうと、月明かりのない闇夜の今宵は、相手の寝所に忍び入るための日、ということのようだ。

えぇぇぇっ!?

確かにいつもなら部屋の前にぴったりと立っている警護の者の気配も自分が部屋に入ったとたんに消えた。これから外に出ても、止められることはない。
「いや、でも、しかし…」
よしんばここを出たとしても、相手は皇女なのだから、彼女の部屋の前に警護の者がいるかもしれない。そこに何といって入る?いや、それより「何しにきたの?」とでも、言われてみろ。末代までの恥となる。だが、ここに居られるのも、もうあとわずかしかない。このまま、何も言わず、去ってしまってよいのだろうか? でも、自分がその言葉を口にしたところで、どうなる? むしろ、彼女を深く思い悩ませてしまうのではないか…?迷わず、潔く即決、が身上のミラーにしてはめずらしく、あれこれと思いをめぐらせていた。

すると、部屋の扉をたたく音が聞こえた。剛龍なら直接声をかけてくる。蛇良は酔いつぶれてしまっているはずだから、今宵は来ることはない。と、すれば……?
ミラーは胸の鼓動が速くなってゆくのを感じながらも、表面的には冷静に扉を開けた。
そこには思い描いていた人物が立っていた。

「……あぁ…君か……何?」
「あの……さきほどの…失礼をあやまろうと思って…」
「あぁ……あれなら……気にしていないから……」
「ほんとうに?」
「あぁ…」
「……良かった……」
「……ひとり?」
「はい?」
「いや、その…ひとりで、ここまで来たの?」
「…えぇ…」
「供の者は?」
「…今夜は休みを取らせましたので…」
「あぁ…そう……」
「……はい……」
「…………」
「……あの…それでは…私、そろそろ…」

待て!

「え…?」
「あ、いや、その……せっかく来たのだから、お茶でも飲んで行っては?帰りは私が胡蝶殿のお部屋までお送りしよう……」
「よろしいのですか?」
「あ…あぁ、どうぞ、どうぞ」
ミラーは胡蝶を部屋に招き入れた。
「あ、てきとーに座って……」
だがテーブルにも椅子にも書物が積み上げられていた。
「あぁぁ、今、すぐに片付けるから、ちょっと待ってて」
ミラーはあわてて、書物を床の上におろした。
「勉強家なのですね、ミラー殿って…」
「そう言われると、なんだかくすぐったいな。私はただ、この国のことを知りたいという、好奇心だけで読んでいたから」
「それで…この国のことは、おわかりになりました?」
「あぁ、だいぶね…ここは本当に魅力のある国だ」
ミラーはこの国の芸術性に強く魅かれていた。織物一枚をとっても、職人の技が光り、魂がこもっている。そしてその技術を途絶えさせることなく、次世代へと伝承している。また鏡の国の宝飾品に使われる宝石も、元を辿れば龍の国のものだったということもわかった。仲立ち人とは膨大な価格で取引きしていたが、いくらかはこの国に入ってきていたのだろうか?国交が成立したら、直接交渉し、この国へ外貨が入るようにしよう。そうすれば、この国はもっと豊かになるだろう。

「ミラー殿は、この国がお好きですか?」
「あぁ。大好きだ」
「……なら……ずっといればいいのに……」
「……え?」
「あっ……ごめんなさい。いやだ、私、何を言っているんだろう…そんなこと、絶対に無理なのに…」
「……胡蝶殿…」
「もう帰ります」
「え?もう?だって、まだお茶も出していないのに?」
「いえ、結構です。お茶をいただいたら、帰れなくなってしまいそうだから…」
「いやいやいやいや!決して、そんな気で言ったのでは!」
「では、どのようなおつもりで?」
「え?」
「あ、いえ…やだ…私、おかしい。変なことばかり言ってる…ごめんなさい。忘れて下さい、失礼します」

胡蝶殿! 」

ミラーは扉へ向かう胡蝶の腕をつかんだ。



今宵はあいにく月が見えず、ひとり者の私にとっては、さびしい夜になりそうです。
心優しいあなた、どうか今夜は、このさみしい男と一緒に過ごしてはいただけないでしょうか?




龍の涙・鏡の血 怪の章 (終)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

SHINE
2007年12月13日 21:05
おぉおおおお!!ミラーさま!よくぞ言った!
そうこないくちゃねぇ♪
やはり男たる者、決めるときは決めないと。
。。。と。ここには、さみしい女がひとり。
って。私のことは、そんなの関係ねぇですが。

これで、国交がどうなるか?
だけが、やはり不安だじょ。。。。
愛戦士桜
2007年12月13日 21:17
あいや~ドキドキしたあo(≧∀≦)o

ミラー王子、胡蝶が来なかったら彼女のところへは行ったのかな…。剛龍さまはおひとりで?なんか頭の中でいろんな妄想が(笑)顔がにやけて止まらない(壊)あーいいとこで終わりー!あーまたへびの生殺しかよおおおo(><)o爆
WAO
2007年12月13日 21:53
うひゃひゃ(*^_^*)ミラー、よく言えたね~
胡蝶もミラーの部屋に1人で来るとは大胆やったけど…難しい関係の国同士やから、これから2人がどうなるかは不安要素が多いねぇ…
チビにゃん
2007年12月13日 23:51
誓いの夜って…そういう日だったのかぁ……(^^;)
こういう時のミラー様って、めちゃくちゃ可愛いのよね。闘将の顔とのギャップが…たまらんっ!
きゃ~っ♪きゃ~♪胡蝶様を引き止めて……。そのまま帰したくなかったのねぇ~♪その気持ちは抑えられなかったのね~♪ほぇぇ~♪(←チビにゃんは勝手に興奮し、崩壊中~)
Rain
2007年12月14日 20:00
SHINE★おぉ、言うたがな!ま、ちょっとズルい手だけどね~。胡蝶みたいな面倒見の良い子はそのヘタレさによろめいちゃう?これもミラーの作戦だったりして?(笑)
Rain
2007年12月14日 20:03
愛戦士桜★行ったんじゃない?明け方頃(笑)
剛龍さまは何をされていたんでしょーね?ひょっとしたら、胡蝶をけしかけたのは、兄上だったりして?そこはご想像におまかせします♪
生殺しー!しばらく続くよ、その状態(笑)
Rain
2007年12月14日 20:05
WAO★がんばったよー。ロマンティックな言葉なんて使ったことないけど、必死だよ。かっこつけてる場合じゃないぞ!って思ったんでしょーね。このヘタレ度にメロメロなんだよなー。
Rain
2007年12月14日 20:07
チビにゃん★日本でもよくあるじゃん?祭の夜は…とか?あーいう類のもの。きっと本当はもっと神聖だったのでしょうけど、人間って自分に都合のいいように書き換えちゃうから(笑)
そーなのだよー。戦士のときの顔と、普段の顔のギャップがよいのだよねー♪無防備な顔とか仕草とか、たまらんぜ!(私も崩壊中)
2007年12月16日 22:51
怪の章の最終回、おめでとうございます。
万葉の時代の歌垣を連想しました。お祭の夜もそうだよね。
月の女神は嫉妬深い…満月の夜なんて、それはもう(笑)
慎み深い胡蝶さまも、月の女神がお隠れになる新月の夜だけは、大胆になれるんですね。ミラー王子には、わたしがいないと…みたいに思っちゃったのですね。
ひとりだけ(笑)ミラー王子は、そのひとりを決めたって事ですね?
おどろおどろしかった怪の章が、こんな終わり方をしただけに、続きが…
それは、来年のお楽しみなんですね?
Rain
2007年12月17日 21:05
てるひちゃん★昔の人って粋でしたよね。まどろっこしいと言われたら、見も蓋もないが(笑)
人の数だけ恋愛の形があるのだから、想いの伝え方もいろいろだよね♪はいヽ(^o^)丿続きは来年(ははは鬼が笑う?)になってからです!
ガンバラナクチャ~ガンバラナクチャ、ガンバラナクッチャ~♪

この記事へのトラックバック