龍の涙・鏡の血59 血の章(1)

そして、ミラーは帰国の日を迎えた。

その前夜。ミラーは胡蝶に自分の名前が記された短剣を渡していた。
「…本来、こういうときは指輪を渡すものなのだろうが、あいにくそのような準備が出来ず……ごめん!」
謝るミラーに胡蝶は「あなたらしい」と笑い、その短剣を受け取ってくれた。だが、この約束はふたりの間だけで交わされたものであった。彼女を王妃として迎えるためには、ミラーにはまだまだ、やらなければならないことがあった。それらをすべて解決し準備を整えてから、正式に龍の国へ申し込むつもりだった。時間がかかるかもしれない。けれど、ミラーの気持ちに迷いやゆるぎはなかった。

ミラー引渡しの場には剛龍だけが一緒にゆくことになった。まだ国交も結ばれていない両国間、大勢の人間で行けばそれだけ緊張感が増す。余計なことに神経を尖らせたくはなかった。したがって龍の国でのミラーの見送りは城門前で行うことになった。まだやっと陽が上りかけた時間だというのに、そこにはたくさんの人が集まっていた。

「本当に、みんなには世話になった。心より礼を申し上げる」
「ミラー…ひっく、殿…っ…お元気で………」
「蛇良……っとにもぉ…泣くな!いつかきっとまた逢えるから。涙はその再会のときまで取っておいてくれ」
ところが、ミラーのその言葉は逆効果で、ますます彼の涙を誘い、それは見送りにきた官僚や民たちにもうつっていった。
「剛龍、そろそろ、行こう。このままでは涙で溺れてしまう」
「そうだな。では、まいろう」
「それでは、みな、元気で!」
ミラーは馬に跨り、白い手袋を嵌めた手を振った。

胡蝶は城の最も高い塔にのぼり、そこから黒い軍服を身にまとった異国の王子の後ろ姿をいつまでも、いつまでも、見送っていた。

剛龍とミラーは昼頃、引渡しの場であるΦ峠の中腹に辿り着いた。ここにくる間、いったい何人の民と別れの挨拶を交わしてきただろう。そのたびに馬の足を停めたので、思った以上に時間がかかった。遅れを取り戻すために峠に差し掛かってからは急ぎ足で昇ってきた。
すでにそこには鏡の国の使者がミラーの到着を待っていた。が、その数、わずか5名。一小隊よりも少ない人数だった。しかも、この大切な場に鏡の国の代表であるべき、トーヤ准将の姿がなかった。
「イクタ大佐、遠いところをご苦労であった」
ミラーはその隊の先頭に立っている若い隊長に声をかけた。
「ミラー王子もご無事で何よりです」
「うむ……ところで、イクタ大佐、出迎えはこれだけなのか?」
「お言葉ですが、ミラー王子。私、現在は准将にございます」
「おぉ……それは失敬した。そうか君が准将か…」
これからは彼がミラーのすぐ下につくことになる。確かに彼は頭もよく、馬術、剣術の腕も軍の中では際立っている。欠点がどこにもない。だが、そこが彼の欠点であった。
軍の統率を図るには、誰かひとり、叱られ役をつくっておく必要がある。だが彼にはその叱るだけの欠点がないのだ。
「ミラー王子。そちらは…?」
「え…?あ、あぁ…こちらは龍の国の第一王位継承者、剛龍殿である」
「剛龍と申します。鏡の国のイクタ殿、お逢い出来て光栄です」
剛龍はイクタ准将に手を差し出した。が、イクタ准将はその手を握らず、無言で頭を下げ
ただけだった。鱗の民に触れると、体にその鱗がうつる。そのような迷信が未だに残る国が、そしてそれを信じている自国の民が、ミラーはたまらなく恥ずかしかった。
「イクタ准将、剛龍殿は友好の意を表して、握手を求めているのだ。それに応じないというのは無礼にあたるぞ」
ミラーは厳しい口調で言った。だが、イクタ准将は口を固く結び、両手を後ろに組んだまま、動かそうとはしなかった。
「イクタ准将!私の命令が聞けないのか!?」
「ミラー、えぇって」
剛龍がミラーをたしなめた。
「しかし…」
「次、逢う時までに、握手が交わせるようにしておいてくれたら、それで、えぇ」
「剛龍…」
「期待してるで」
「あぁ。約束する…」
「ほな、俺はこれで…」
「……剛龍………元気で……」
「ミラーも」
ふたりはどちらからともなく、手を出し、固い握手を交わした。


きっと、必ず、また、逢おう……。

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この記事へのコメント

2008年01月17日 01:09
わーい♪わーい♪O(≧▽≦)O
再開だぁ~♪ミラー様と剛龍様に再び会えたぁ~♪チビにゃんは、ミラー様と剛龍様がめっちゃくちゃお気に入りのキャラなので、いつか、ちびミラー様、ちび剛龍様を描きたいですぅ~♪でも…剛龍様の衣装のイメージが出来なくて、なかなか実現しないんですわ…(ToT)
そうかぁ…ミラー様は、いよいよ鏡の国に帰るんだね。胡蝶様とも、蛇良とも、剛龍様ともお別れかぁ。本当に、いつかまた逢えるかな…。
ミラー様のお迎えが、たったの5人なの?ミラー様が居ない間に、鏡の国も変わってそうだ。
イクタ准将…うわぁ~素敵だろうなぁ(でへへ♪)
でも…王子の言うことが聞けないのぉ~?
迷信が恐いだけ?それとも…王子の命令と言えども簡単には聞かない…曲者なのかのぉ?
WAO
2008年01月17日 02:01
とうとう鏡の国に帰るんやね、ミラー。胡蝶に指輪代わりの剣を渡すなんてやるー!!!!道は険しいやろうけど頑張ってね。ミラーと剛龍もいよいよ別れの時。イクタ准将が握手を拒んだけど、まだ無理のないこと…これから両国の絆を結べるように祈っています。
Rain
2008年01月17日 11:04
チビにゃん★再開再会でーす♪あぁ~チビ剛龍、チビミラー、ぜ、是非!剛龍様の正装イメージはねSHOCKのショー内で大倉くんがタップを披露するときのチャイナイメージ。あれの紫とかかな?(笑)戦闘服はまさに殺陣のシーンの屋良くんの衣装です。でもこのシーン、チビにゃんは座長ガンミで気付かないかな…?ちらっとでも屋良くんも見てね。ほんと、素敵だから。
物語はまさにこの後はRPGの世界となります。
ミラーパワーダウン!とか剛龍のレベルがUPした!とか(笑)ジェットコースターなみのスピードで行きます。ついてきておくんなまし。
Rain
2008年01月17日 11:10
WAO★おまたせ~♪ミラーらしいでしょ?これが不器用な男の精一杯の表現です(笑)でも…。
この章のタイトルがなんせ「血の章」なんとなく見当はついてるかな?WAOみたいに心のやわらかい、優しい人には酷な章かもしれない…。
怒りに震えてしまうかも。でもそれが当たり前の感情だし、感想だと思うので…。でも、がんばって(がんばらせんなよ(笑))読んでみて。
2008年01月17日 19:22
お帰りなさぁい!待ってましたよぉ!
でも、胡蝶も寂しいだろうけど、とりあえずは安心かな?短剣って・・・すごいけど。
それはそれで、かっちょいいなぁ。
イクタ准尉も、ちょっと難しい人間???
剛龍さまが、大人な態度で素敵♪
Rain
2008年01月18日 20:28
SHINE★そーゆー普通ぢゃないところがミラーだから(笑)イクタさんはね、自分の職務に忠実なだけだったりもする。真面目すぎるゆえの悲劇…ですかね?
てるひ
2008年01月19日 11:47
再開、おめでとうございます!また…乗り遅れてますが、先読みしないように気をつけながら、ついていきますね。
愛する人に、短剣を渡す…ミラー王子らしいなぁ~と思いましたが、先日見てきた舞台の、第二幕の劇中劇を連想してしまいました。だって…タイトルもだし。塔の上から見送るこちょうさまの姿が、なんだか悲しげで。
イクタの不遜な、よそよそしい態度も、なんか気になる。
不穏な幕開けですね。続きは、また読みにきますね
Rain
2008年01月19日 19:24
てるひちゃん★SHOCKと平行するような形になりますが、うまくメリハリつけてがんばります。
でも先読みってしちゃいますよね。それをどう裏切らず、あるいはどんでん返しさせるか。
難しいですが腕の見せ所?あ、それは「ここがお前の鞘…」かな?私は短剣を突き刺した時のバックダンサーの動きが好きです。痛みというか悲しさがずきんと伝わってきます(脱線!)

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