龍の涙・鏡の血62 血の章(4)

国が何といおうと、そういう命令であろうと、マーティにはミラーが死んだと思う事など出来なかった。

彼の遺体がまだ見つかっていないという事実だけが、彼にとって唯一の望みだった。そのかすかな光だけをたよりに生きてきた。口は出さなかったが、いつの日か、またミラー将軍の下で働ける日がくる事をひたすら信じ、得意の暗号解読に加え、情報収集・操作術を学び、実戦においては射撃の腕を磨いた。その努力と実力が上層部の目に留まり、特命部隊に抜擢されたのだった。
「特命部隊の本当の目的を知ったときは辞退しようかとも思いました。でも、ここに入らなければ、あなたを救う機会は訪れない。助けることは出来ない。そう判断し、入隊を決意しました」
「…つまり、特命部隊の本当の目的とは……私の暗殺……」
マーティは黙ってうなずいた。

軍の命令とは正反対の『ミラー救出』という彼自身の目的遂行のため、敵を欺く生活が続いた。マーティの神経はすり減ってゆくばかりだった。そんな彼を支えたのが次々と入る、ミラーの生存を証明する情報だった。歩行訓練をはじめたこと、乗馬の訓練をはじめたこと…マーティはミラーの勇姿を想像しては、その度にひとり喜びにうちふるえた。そしてとうとう、任務遂行の日がやってきた。すなわち、それはマーティの打ち立てた目的遂行の日がきたことに他ならない。だが、特命部隊に所属する兵の中で選抜されたのは、弓の名手だった。

「弓?」
「えぇ……ですから私は第一次作戦のときは、国でただ一心にあなたの無事を祈っておりました」
「第一次作戦だと?」
「あなたを森におびき寄せ、そこで始末するという作戦でした」
「それじゃ…あれは…龍の国の放ったものではなく、鏡の国のものだったのか!?」
ミラーの脳裏に斑狩人を追って入った森での戦いが浮かんだ。
「そこでなら事故に見せかけることが出来る。相手国の不始末として、処理できると考えたのです」
そうならなくて良かったとミラーは思った。自分だけではなく、剛龍までもが咎を受けることになったのだ。ミラーは今更だが、斑狩人に感謝をしたい気持ちになった。

「ところが一次作戦は失敗に終わり、その予備案としてほぼ同時進行で動いていた、
二次作戦が実行されることになりました」
今度は銃殺ということで、真っ先に選ばれたのが、マーティ少佐だったという。最年少だった彼はすすんで雑務を引き受けた。
「銃の手入れは私の重要な役目でした」
「銃の手入れ……?」
マーティはへへへ…と照れくさそうに頭をかいた。
「彼らの引金に少し細工をしておきました」
数秒にも満たないわずかな間、少しでもタイミングが狂えば、ミラーの命はない。マーティはすべての神経を集中させ、的確に撃った。
「……見事な腕だな……」
「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたします!」
「しかし君は…」
「はい?」
「見かけに寄らず、大胆というか…無謀というか…万が一、失敗したときのことは考えなかったのか?」
「その時は」
「その時は?」
「あなたのお供をするつもりでしたから」
「供?」
「地獄だろうと、冥界だろうと、どこまでもついてゆくつもりでしたから」
ミラーは自分の部下にも、蛇良に負けない忠実な人間がいたことがたまらなくうれしかった。彼という人間がいる限り、まだ希望はある。それはミラーの心を明るくさせ、再び立ち上がる力を与えてくれた。

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この記事へのコメント

2008年01月19日 22:16
マーティ偉い!たった独りで、よく耐えたね。よく頑張ったね。再びミラー様の下で働けることだけを心の支えにして…って、もう感動しちゃったぁ。(ノ◇≦。)
なんだか今日は、ミラー様以上に君が眩しく見える…(笑)
そうだよぉ~ミラー様は独りじゃない!必ず希望は見えますわ。
あの弓矢の集団は、鏡の国の人間だったのか…。
2008年01月19日 22:20
まずは、一件落着なのかしら?
信用できる部下がいるということが何よりの宝だよねぇ?これからも、ミラー国の行方が気になります。ミラーの手によって王権を復活するのでしょうか?
マーティ!まずは、ご苦労様であった!!(笑)
WAO
2008年01月20日 08:16
マーティ少佐、すごく成長していたんやね!味方を欺きながら、ミラー救出の策を練っていたなんて…しかし、斑狩人との闘いの時は何だか不審な気がしたけど、鏡の国の刺客やったとは…自分の国に裏切られるなんて無常な世界やね…でも、ひとりでも味方がいてくれたことが何より嬉しい事やろうね。これから大変やけど、ふたりで頑張ってね~
Rain
2008年01月20日 15:09
チビにゃん★「みんな成長したな(涙)」SHOCKでコウイチが言いますね。あれっぽい?マーティ少佐、完璧とは言いがたいですけど、ミラー様のためとあらば必死です!そうです。いつの間にか鏡の国は龍の国に入り込んでいました。
……なんかいやな臭いしてきませんか?
Rain
2008年01月20日 15:11
SHINE★第一ステージクリア?って感じかしら?
ここの教訓は「あきらめるな。部下を信じるべし?」マーティ、やっと出てきた感あるけれど、実はとっても重要なキャラでもあります♪
Rain
2008年01月20日 15:14
WAO★でっしょー?剛龍さまも「うちの国の人間ではない…」って気付いていたもんね。少しは疑ったけれど、さすがに鏡の国の人間とは思わなかったみたい。だってあの後すぐに鏡の国からお迎えの手紙と贈り物も届いたもんね。あれは油断させるため&次の作戦の下地作りだったわけよ。なんと狡猾な鏡の国…ってイチバン、コワイノハ、ソレヲ、カイテイル、ワタシ?
2008年01月21日 23:24
追いついてきた~(笑)
龍の国で、ミラーが命を落とせば、好都合だったでしょうね。でも、鏡の国の刺客が、やすやすと(?)入国できるって事は、龍の国はこれからも危険にさらされ続ける訳ですね?
マーティは、ひとり、この日の為に腕を磨き、銃に仕掛けをしたりして備えたのですね。ミラーは、彼の思いに報いなきゃですね。
質問があるんですけど…マーティが放った最初の一発は、どうやって、複数の敵のこめかみを打ち抜いたの?
Rain
2008年01月22日 08:23
てるひちゃん★やすやすと入国できちゃうってことはそうだよね。いつの間にか下地が出来ていた…。質問のお答え!それはミラクルが起きたからです…で、濁しちゃいけないね。音は一発として聞こえていたけれど、実は間髪いれずに早撃ちしたと…目にもとまらぬ、音にもとまらぬ早業だった!…く…苦しいっ!?(汗)

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