龍の涙・鏡の血63 血の章(5)

ミラーはどうすることが鏡の国にとって、そして自分や、マーティ少佐にとって最善かを考えていた。

ミラーとしてはすぐにでも鏡の国へ戻り、父の仇を討ち、王位を取り戻したかった。しかしマーティ少佐は命令違反を犯している。今、彼が国へ戻るのは危険だ。たとえ自分が鏡の国へ戻ること叶わず、命果てたとしても、彼にだけは真実を伝えるものとして生き残っていて欲しかった。そのためには彼を一時、身の安全が確保できる場所へあずけなければいけない……。

「マーティ少佐。行くぞ」
「えっ?行くぞって、ミラー将軍、どこへ?」
「龍の国だ。あそこなら、きっと我々を温かく迎えてくれる。君の身柄を一時、そこにあずけて置こうと思う」
「それならばミラー将軍、この峠の北側にあるJ王国にゆきましょう!」
「J王国?」
「えぇ。私の母方の祖母のそのまた祖母の妹の子供の……」
「えーいっ、まだ続くのかっ!?」
「と、とにかく遠縁がそこにいるので、J王国に向かいましょう!」
「そうか…君の遠縁がそこに……」
「はいっ!」
「ならば、君は急いで、J王国へ向かうが良い」
「君はって…ミラー将軍は?」
「私のようなお尋ね者がJ王国に入っては、君のご親戚に迷惑がかかるだろう。だから私はいったん、龍の国へ行く。そこで準備を整え、場合によっては再び東の国の力を借りて、鏡の国へ戻る。マーティ少佐、その際には是非、君にも…」
「それは…なりません」
「なりません…とは、どういう意味だ?」
「龍の国へ行くのは、どうかあきらめて下さい」
「……なぜだ?」
それまで、まっすぐにミラーを見つめていた、マーティ少佐が視線を外した。
「マーティ少佐!なぜだ!?なぜ龍の国へ行くのをあきらめなければならないのだ!」
「………」
「マーティ少佐!こたえろ!これは命令だ!」
「……おそらく…」
「おそらく…何だ?その先は!?」
「もう…そのような国は…ないからです……」
「な…に…?」
「トーヤ将軍が龍の国の制圧に向かっているからです!」

!?

ミラーは言葉を失った。



ミラー失踪後、軍における全ての権限はトーヤに譲られた。

将軍職である彼の命令に誰もが従い、働く。軍の予算の使い道、武官の階級決定、何もかもがトーヤの裁量ひとつだった。
トーヤは軍部に濃く残るミラー前将軍の影を一掃することした。ミラーのお気に入りだった武官、ミラーを支持するものたちを中央から、地方へ赴任させ、自分の息のかかったものを側に置いた。その職を得るために武官たちはトーヤに賄賂を送った。当然、軍の中からは不満の声があがった。次第に行方知れずのミラーの帰還を望む声まで聞こえはじめた。ミラー生存の一報が飛び込んできたのは、クーデターが囁かれ、国が揺れ動いていた時期であった。

権力の虜となっていた彼はそれを封じ込めることにした。

この座を誰にも渡してなるものか。
たとえそれが正当な王位継承権にあるものだとしても…。

すぐにミラー暗殺のための特命部隊を組んだ。だが第一次作戦はミラーの悪運が勝り、失敗に終わった。直ちに第二次作戦決行となった。
軍の下層部には「ミラーは龍の国で捕らえられ、仇敵として殺された」と伝えられた。トーヤ将軍の初陣には「ミラーの弔い」という大義名分が掲げられていたのだ。ここで勝利を収めれば、名実ともにトーヤは鏡の国の英雄となる。同時に龍の国を傘下に治めることが出来れば、そこに眠る豊富な鉱山資源を独占できる。鉄は剣になり、銀や鉛は銃や弾丸になる。資源を独占できれば自国で武器の生産を可能にし、またそれらを諸外国に高く売ることも出来る。


かくして、鏡の国は龍の国へ侵攻したのだった。

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この記事へのコメント

WAO
2008年01月21日 00:25
何ですと!?龍の国に侵攻?やだやだやだーーー!!剛龍も胡蝶も蛇良も死んじゃやだーーー!!ミラーと剛龍で力を合わせて何とかなんないの????
愛戦士桜
2008年01月21日 13:09
ミラー王子も自分の国がそこまで卑劣だと脱力だね……自分もかつてはそんな風にきっと冷酷だったと痛感して余計 辛いね…。
でも自分を信じて待っててくれた部下もいる!
龍の国が心配だけど そう簡単に侵略されたりしないでしょ!と桜は強く信じております!!!
2008年01月21日 17:28
う~ん。そうなるよねぇ。ミラーを陥れたということは。
これは、風雲急を告げる事態!ミラーは、助けに向かうのでしょう。
必ずや、なんとかしてくれる!
ミラーさま。
ご武運を祈ります!
Rain
2008年01月21日 20:13
WAO★やだやだやだやだ~って言っても聞かな~い(笑)って、もう入っちゃったのよ。鏡の国。
でもね、あんまり残酷すぎるのは私の世界ではないし、この物語には必要ない。そのあたりは抑えておりますので…ご安心を♪
Rain
2008年01月21日 20:16
愛戦士桜★そうなんだよ。その責任は自分にもある。わかっているから余計に辛い。情けない。なんとかしたい。本家本元の将軍(笑)ミラー将軍がこのまま黙っているわけ…ないよね。
ゆうべの兄弟で剛さんが「将軍!」と呼んだとき、「その通り!」と拍手してしまいました。
Rain
2008年01月21日 20:19
SHINE★みんながこの先をどう読んでいるのか、なんとな~くわかったような、わからんような。それに私は応えているか?いないか?
なんかそれ考えると、物語以前にドキドキしてしまいます。意外な展開…かもよ~♪

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