龍の涙・鏡の血64 血の章(6)

突然やってきた軍隊に、それまで戦などとは無縁の生活をしていた龍の国の民は、なすすべがなかった。


街には火がつけられ、人々は逃げ惑い、親を殺された子供が泣き叫んでいた。龍の国の軍は実戦に乏しく、城門の守りを固めるだけで精一杯だった。
「剛龍さまが戻られるまでは、俺たちで何とかしよう!」
蛇良率いる自衛団が生き残っている民を安全な場所へ誘導し、鏡の国軍の追撃を交わしていた。

「いったい、何がどうなっているんだ?」
「さっき、鏡の国の兵士が息を引き取る前にミラー万歳と言っていたぞ?」
「ミラー万歳?」
「まさか…これは、あいつが仕掛けた戦なのか?」
「もしそうだとしたら、剛龍さまは?」
「すでに殺されている…?」
「おいっ、滅多なことをいうんじゃない!」
「そうだ!剛龍さまに限って、そんなこと!」
「いや…だが…待てよ…ひょっとしたら、剛龍さまは何もかもを知っていて、俺たちを置いて逃げたんじゃ…?」
「てめぇっ!何てこと言いやがる!」
「だぁってよぉ、国のお偉方はみんな、とっとと逃げちまったじゃねぇかよぉ!それって鏡の国が攻めてくること、知っていたってことだろぉ!?」
「うるせー!黙れ!」

やめろってばよ!仲間割れしている場合じないだろ!?

蛇良は、取っ組み合いをはじめた仲間の間に割って入った。
「疑心暗鬼になるのはわかる。でも今、やらなきゃいけないのは、この戦を仕掛けた奴を探すことじゃないだろ?国を守って、民をひとりでも多く救って、剛龍さまの帰りを待つことじゃないのか!?」
「だからその剛龍さまが裏切ったんじゃーねーのかって言ってんだよ!」
「そんな方ではない!それはみんなもよく知っているだろう!?」
「じゃぁ、やっぱりミラーか!?」
「そんな卑怯な奴じゃない!」
「蛇良!お前はいったい、どっちの味方なんだ!?」
「そうだ。お前も、本当は何もかも知っていたんじゃないのか?」
「俺は…俺は誰の味方でもない!ただ、俺は、俺の大事なこの国を大切な人を守りたいだけっ……!?」
と、彼らの背後で耳が痛くなるほどの、大きな爆発音が聞こえた。
「なんだ、今のはっ!?」
「おいっ!あれを見ろ!」
「城門が!?城門が破られている!」
蛇良たちの眼に紅く大きな門の扉が蹴破られ、たくさんの兵隊が城の中へなだれ込んでゆくのが見えた。


胡蝶は女官が止めるのも聞かず、避難場所である大聖殿を飛び出した。大聖殿には次から次へと負傷した龍の国の兵や民がやってきた。そこに運ばれてくる者の口からは、何度となく、ミラーの名前が聞かれた。これは彼の追悼のための戦だというものや、それはあくまで建前で本当の目的は龍の国の侵略で、ミラーは最初からそれが目的で、この国にやってきたのだという。はじめは平気な顔で彼らの手当てをしていた。が、やはり、耐えきれず、病院に薬を取りに行くといって、逃げ出してきた。

薬剤貯蔵室に入ると、抱えてきた籠の中に手当たり次第、薬を放り込んだ。薬を入れた硝子瓶同士がぶつかって、跳ね、床に落ちた。その拍子に蓋がはずれ、中に入っている粉がこぼれ落ちた。今、必要なものは調合しなければ使えない薬ではない。消毒液や、火傷や、切り傷を治癒する塗り薬や、包帯、清潔な布だ。
「…………」
彼女は忍ばせておいたミラーの短剣をそっと取り出した。
「あぁ…ミラー…今、あなたはどこにいるの? みんなのいうように、この戦はあなたが仕掛けたものなの?」
だが、短剣は何も語らない。
「……そんなこと…するはずないわよね?だってこの国が好きだって言ってくれたもの…それとも……あれは……偽りだったの?」
胡蝶は鞘から短剣を抜いた。刃の片面にはミラーの名前が、もう片方の面には胡蝶の名前が彫ってあった。ミラーが胡蝶を妻として迎える約束の証として、小刀で刻んでくれたのだ。
「…あなたはそんな方ではない。きっともうすぐ、ここに戻ってくる。そして私たちを助けてくれる…」
胡蝶は短剣に祈りを込め、鞘にしまった。と、そのとき、爆音とともに床が大きく揺れた。
「何……今のは……?」
やがて胡蝶の耳に地鳴りのような靴音と、たくさんの人声が聞こえてきた。

探せ!城の中をくまなく探して、王族を見つけろ!

「!」

「城の中にいなければ、抜け道を見つけろ!そこを辿れば、きっと見つかる!」

胡蝶はどこか身を隠す場所はないかとあたりを見渡した。

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この記事へのコメント

WAO
2008年01月21日 21:17
鏡の国、やり方が卑劣過ぎるね…まあ、侵略を繰り返して来た国やから、その辺の悪知恵はお手の物なんやろうけど。ミラーや剛龍が疑われてて哀しいな(>_<)胡蝶の気持ちを考えると胸が苦しいです。2人とも、早く龍の国を助けに来て!!
2008年01月21日 22:30
厳しい状況においこまれていますね?
ミラーが龍の国を裏切ることなんてないと信じてほしいです。多分、懸命な剛龍は、信じてくれていると祈りたいです。
愛戦士桜
2008年01月21日 22:57
すごいことになってる……胡蝶も危ないし、蛇良もひとりで頑張ってるけど 誰もが不安な時にふと誰かが漏らした言葉に翻弄されてしまったりするよね。真実を見極めなきゃいけない、でも人の心はときにすごくもろい……だからこそ、折れない精神のリーダーが必要なんだよね。早く、早く、早くーーーー!!!!!!
2008年01月21日 23:46
人の心と言うのは、怖いものだなぁ…とつくづく思います。誤った情報に操られ、誰の言葉も信じられなくなり、最悪の方向へ流されていく。Φ峠を通らず、龍の国に攻め入るには、何者かの手引きが必要な気がして…
蛇良は、剛龍さまが帰ってくるまで、国を死守できるのかな…胡蝶が最悪な道を選ばないように願ってやみませんが、身を隠す場所を探してるうちに、なにかを見つけるのでしょうか。
チビにゃん
2008年01月22日 02:10
うえ~ん(T_T)最悪な事態になってるぅ。
ミラー様の名を出して、龍の国に攻め入るとは……どこまでも卑怯な。
二人の王子が愛する国をめちゃくちゃにされただけでも悔しいのに…その上、王子たちが疑われてしまうなんて…。怒りを通り越して…泣けた…(>_<)
胡蝶様の身が心配。ミラー様の短剣を持ってるし…敵に見つかったら……。
続きが恐いにゃ…。王子たちの涙は……見たくないぉ~(・_・、)
Rain
2008年01月22日 08:27
WAO★わーお(笑)いつも来てくれて、ありがとうね。そうなんだよ。そういうことに関しては知恵が働く。(…って、あたしのことだよ(笑))
好きな人を悪く言われることほど辛いことはないよね。信じている…でも揺らぐ自分も責めてしまったり…。王女としては失格だけど、逃げ出したくなる気持ちわかるよね。
Rain
2008年01月22日 08:31
SHINE★厳しいですよー。この先も。だって創り手がブラックRainだもん。私達は全て(…でもないか)を知っているから、彼が裏切ったとは思わないけれど実際、こんな状況になったら、
わからないよね。それを責めることもできない。戦争って何もかもを壊すって本当だね。
Rain
2008年01月22日 08:34
愛戦士桜★もっとすごいことになります。予告です。たぶん、こういう状態になるよね。今でもそうだもんね。不安だから、余計に根も葉もないデマに揺さぶられちゃう。そんなときほど、しっかりしなくちゃいけない。そう。信念を貫く人…それこそが救世主なんだろうけど。
創り手は誰かといったら、私なんだよね(苦)
Rain
2008年01月22日 08:37
てるひちゃん★極限状態でも平静を保てるなんて、ほんとに修行を積んだ徳のある人か、てるひちゃんの昨日の記事にもあるように、何も感じない人…。そして戦争を起こすのも、広げるのも、不安を駆り立てるのも、すべて人間がやっていることなんだよね。
Rain
2008年01月22日 08:40
チビにゃん★これまでの私の物語を知っている君、なんとなく予測はついているのかな?
落とし込むときは容赦ないRainワールド。ダークな世界が続きます。でもここまできたら、ゲームクリアしないとね(笑)ついてきてね?

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