龍の涙・鏡の血67 血の章(9)

鏡の国の軍は見張りの隊を残し、ひとまず引き上げることにした。

「トーヤ将軍、お怪我の具合はいかがでしょうか?」
眉間に皴を寄せ、額に脂汗をかいているトーヤにカザマ大佐が尋ねてきた。
「こんなもの、かすり傷だ」
ふいをつかれて刺されたがしょせん女の力。たいした深さではなかった。
「しかしトーヤ将軍、どこかできちんと手当てしなければ、そのままでは化膿します。そうなってからでは…」
「えぇい!うるさいっ!そんな時間があったら、早く、ミラーを探し出せ!」
「は、はいっ!」
あの男がまだ生きていると知ったとき、体が震えた。それは不甲斐ない部下への怒りか、それとも間違いなく自分を襲ってくるだろうという恐怖か……?

と…。

ぞくり……。

トーヤの背中に冷たいものが走った。息がつまりそうなほどの圧迫感。だが、なぜか妙に懐かしいこの感覚……。その気配はトーヤだけではなく、隊のもの全員が感じているようだ。そんな鏡の国の軍の前にゆらりと、ひとつの黒い影が現れた。
「おい!なんだ、あれは…?」
「亡霊か?」
「死神か?」
「……いや…冥界の王子だ……」
「冥界の王子!?」

冥界の王子が放ってくる、冷気、殺気は、国にいた頃よりも、数段増していた。長い間、共に戦い、その力量は十分わかっている。その力を出される前に弱点を執拗に攻め、押さえ込むしかない……。

「久しぶりだな、ミラー。まだ生きていたのか?」
「トーヤ……」
「いや、それとも生き返ったのか?冥界の王子として」
「何をした」
「あぁ?」
「龍の国に何をした!?」
「龍の国……あぁ…あれがそうなのか?…あまりにも小さいので村かと思っていた」
「貴様……!」

ミラーが腰に差した剣に手をかけた。いっせいに兵士たちも剣に手をかけた。が、トーヤはそれを制止した。まだだ。まだ、その時ではない…もっともっとその精神をいためつけ、奴を追い詰めてからだ……。

「まぁ、待て、ミラー、これを見ろ」
トーヤは短剣をミラーの足元へ放り投げた。
「こ…これは!?」
ミラーの顔色が変わったのをトーヤは見逃さなかった。やはりミラーの泣きどころは、あの女か……。
「龍の国で拾ったものだ。よく見たら、お前の名前が彫ってあるじゃないか。面白いことがあるものだな」
「胡蝶……」
「こちょうというのか、あの女は?あぁ、そういえば…蝶のような痣があったなぁ…」
「胡蝶に会ったのか!?」
トーヤは薄笑いを浮かべた。
「胡蝶に何をした!」
「聞きたいか?」
「!?」
「聞かせてやってもいいが……まだ陽が高いからなぁ…」
周囲の兵士たちはどっと笑った。
「おのれトーヤ!馬を下りて、剣を抜け!」
ミラーはそういいながら、再び剣に手をかけた。ミラーの周囲にいた兵士たちは、すかさず、彼を取り押さえた。
「くそっ!離せ!無礼者!これは、私とトーヤとの決闘だ!他の者が手を出すのはルール違反だ!」

自ら、相手の術中にはまるとは、冷静沈着なミラーらしからぬ行動。どうやら、さきほどの話が相当、彼の精神にダメージを与えているようだ。
今なら、勝てる…!

トーヤは馬を下りた。と、そのときだった。
「伝令!伝令にございます!」
軍の間を早馬が割って入ってきた。
「申し上げます!龍の国の駐屯隊が全滅しました!」
「何だと!?」
瀕死の状態に見えたあの国の、どこにそんな力が残っていたというのだろう?
「して、敵方の兵の数は?」
「……ひとりにございます…」
「ひとり…?たった、ひとりに中隊三個、やられたというのか?」
「はい……」
あの煙幕の中で一瞬見えた男だろうか?それとも…?龍神の怒りに触れたか……?
「……カザマ大佐、今すぐ、全軍を率いて、鎮圧に向かえ!」
「トーヤ将軍は?」
「……決着がつき次第、すぐにそちらへ向かう……」

そう…ミラーを永遠の眠りにつかせ、鏡の国の将軍、次期王位継承者として、再び、龍の国の制圧に向かってやる。

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この記事へのコメント

2008年01月24日 22:03
そうだよね?剛龍さまが、黙って引き下がる筈はないものね?
ミラーさまも、胡蝶の事で、心が揺らいでしまっているけど、負けないで、ミラーさまも胡蝶の無事を信じて欲しい。
2008年01月24日 23:53
ああ~忌々しい…トーヤめぇ~!ホントに、どこまでも憎たらし~~いっ!(-_-メ;)
ミラー様がかわいそ過ぎる~!
トーヤなんかに、やられてしまうようなミラー様じゃないと思うけどさ、ミラー様の胸中を思うと、泣けちゃうよ(TT)
たった一人で兵を全滅させた。それはやはり、剛龍様?さすがぁ~!剛龍様、頑張って~!
愛戦士桜
2008年01月25日 10:50
ミラー!トーヤの性格知ってんでしょ!惑わされたらいかんで!!!!!しっかりせんかい!!!!
トーヤ、あんたは桜が始末したる(何者やねん)

…剛龍さまが黙ってやられるわけない。ただ……惨状を目の当たりにした剛龍さまが怒りや悲しみでどうなってしまわれたか それが心配ですわ…(だから何者やねんて)
Rain
2008年01月25日 19:45
SHINE★お♪よくわかったね。ひとりで闘ったのがあの人だって♪そのシーンは後ほど…。とりあえず今はミラーVSトーヤだな。
Rain
2008年01月25日 19:48
チビにゃん★龍の国に滞在したことで、ミラーという人間に変化がみられたのは、ご承知のとおり…。自分の感情に正直になったというか、
その点では良かったのかもしれないが、戦場ではそれが命取りになってしまうことも…。どっちがどうとはいえないけどね…。はい!剛龍さまのシーンはあとでゆっくりと~♪
Rain
2008年01月25日 19:49
愛戦士桜★いちいち、オモロイな。君は(笑)
おー。さすが剛龍マニア(笑)彼の性格・人柄をよくご存知で。彼の行動はのちほどの章で。
ここは血の章。さてどんな結末になるのか?
2008年01月26日 09:41
冥界の王子の殺気。妙になつかしい…と思ってしまうなんて。トーヤは、その時点で、負けてますね。最後までカッコいいヒールでいてほしかったな。
守るべきものを持つ人は、それゆえ弱く、逆にそれまで以上に強くもなれる。冥界の王子は、どうでしょう…血の章。そう言えば、血って血縁の意味だったの?今さら…
剛龍さま、その力は、ほんとうは発動してはいけない神の領域の力だったのでは?
Rain
2008年01月26日 14:51
てるひちゃん★うん。今頃になって「もったいない使い方」してもーた(>_<)って思ってる。
ゲームクリエイターさんって、ほんとに凄いっな…と、しみじみ(これは方言?)思った。
「血」うん。それもあるし、この章で戦がはじまってたくさんの人々の血が流れたでしょ?そういう意味もあります。んー!剛龍さまね。
どのような戦いをされたのかは…もうすぐ。

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