龍の涙・鏡の血69 涙の章(1)

峠からの帰り道、剛龍は何度も強い気の乱れを覚えた。


何か大きな事が起こっているようだ。父王の容態が急変しているのではないかと思った剛龍は、馬の足を速めた。
と、何やら無数の蹄の音が聞こえてきた。この走らせ方は旅の人間のものではない。隊列を組み、足並みを揃えて進む、軍隊のものに間違いなかった。

何ゆえ、ここに軍隊が…?しかもこれは、我が国のものではない……?

剛龍は乱れる気をなんとか集中させ、その正体が何であるかを確かめようとした。剛龍が眼を閉じた瞬間、たくさんの矢が彼をめがけて飛んできた。

「停!」

剛龍が小さく唱えると、それらの矢は手前でとまり、ひとりでに下側垂直に向きを変えると、土の上に刺さった。剛龍が眼を開けると、まわりをぐるりと兵士が取り囲んでいた。
「龍の国の剛龍王子…だな?」
ミラーによく似た面差しを持つ若い将校が一歩、前に進み出た。
「そうだが……あなたは?」
「私は鏡の国のリョウスケ中隊長…で、ある」
声が震えている。線も細く、軍服もどこか借り物のようで、なじんでいない。これが彼にとって初めての実戦なのではあるまいか…?
「ミラー将軍の仇、これより討たせていただきます!」
「仇!?それはいったい…!?」
剛龍がそれを問う間もなく、彼らは鑓を構えた。若き指揮官、リョウスケ中隊長がさっとその手をあげると、いっせいに剛龍に向かってそれを突き出した。が、それらは宙で硬い音をたてただけだった。

おぉっ!?

剛龍の体は鑓の上を飛び、そのまま若い指揮官の前へとひらりと降り立った。
「……今、なんていうた?」
「あ……えっ……と、銃構え!」
「こっちの質問に答えぇ!」
「な、何をしている!は、早く!撃てぇ!」
「あかんっ!よせっ!」
剛龍の声が届かなかったのか、兵士たちは引金を引いた。剛龍の研ぎ澄まされた感覚は一瞬のうちに弾道を読み、身を伏せ、それらを避けた。狙いの外れた弾のいくつかは、体のすぐ脇を焦げた臭いをさせながら通り過ぎた。そして剛龍を狙ったはずの弾は彼の真正面にいた若い指揮官と、その馬に命中した。どさりと音をたて、剛龍の横に落ちてきた若い指揮官は、すでにこときれていた。
「中隊長殿!」
指揮官を失った隊は統制を欠き、おろおろするばかりだった。この兵士たちは、剛龍を狙うということは、対峙している将をも撃つことになるということがわからなかったのだろうか?体を起こし、剛龍は彼らの顔、姿を見た。おそらく、まだ十八にもなっていないだろう。少年といってもよい、若者ばかりだった。

「鏡の国の兵士たちよ!これより、十(とお)数える間に、ここを離れよ!十を過ぎても、まだここにいるものは、命を捨てた者と解釈し、容赦なくその魂、この剛龍が地獄の番人どもに渡してやろう!」

剛龍の言葉が伝わったのか、伝わらなかったのか、兵士たちはその場を動こうとしなかった。

しかし、

十(とぉ)!

剛龍が数えはじめたとたん、彼らは手綱を引き、先を争って逃げ出して行った。

剛龍は異国の地に残された若き指揮官の亡骸を抱え、道の端へおろした。そして彼のまぶたにそっと触れ、何かを唱えた。

剛龍は指笛を吹き、艶鳥蹴狗を呼んだ。
龍の国で何かが起きている。急いで戻らなければ!

空へと舞い上がった艶鳥蹴狗の起こした風に、道端の白く小さな可憐な花が揺れていた。

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この記事へのコメント

2008年01月27日 12:51
実戦経験のない若い兵士を送り込むというのは?みくびったみたいですねぇ?
そうです!剛龍さま!自国が大変なことになってるのぉ!!早く、救い出してぇ!!(哀願)
WAO
2008年01月27日 13:04
なんだか剛龍はかなりなめられたみたいやね…まぁ、経験が無いとは言え、多勢に無勢やから大丈夫と思われたんやろうか。剛龍~龍の国が大変なことになってるで~早く帰ってなんとかしてや~
Rain
2008年01月27日 19:38
SHINE★実は…ミラーというカリスマを失った鏡の国、そうせざるを得ない、切羽詰まった状態でもあったと…。とうとう最終章がはじまったわけですが…ここは涙の章です…。
Rain
2008年01月27日 19:42
WAO★なめられてますね(笑)彼の本当の力、きっと誰も知らないだろうから…。普通の物語ならヒーロー登場で解決するのだろうけど、ここの創り手はいけずなRain(笑)ひとすじなわではいかないよ~(>_<)涙の章、はじまりました!
愛戦士桜
2008年01月28日 10:37
剛龍さまはいかなるときも気持ちを乱すことなく正しきものを見定めようとする…素敵。
若き指揮官、リョウスケ中隊長もトーマ同様早かったね(爆)白虎隊みたいな少年たち、彼らも可哀想な子たちだったね…。
「空へと舞い上がった艶鳥蹴狗の起こした風に、道端の白く小さな可憐な花が揺れていた。」
人間たちが愚かな戦いをしていても花はそこでいつもどんなときも静かにただ可憐に咲いているだけなんだよね……。動と静、いいシーンですな。
Rain
2008年01月28日 20:50
愛戦士桜★剛龍がその手を血に染める…って想像つかないしね。敵とはいえ、命だけは取らずにおきたい。だけど剛龍は悲しい人でもあるよね。怒りや悲しみをそのままぶつけることができない…。彼がその感情を抑えられなくなったとき、怖いよね…。その白い花。若き将校の姿にも重なりませんか…?彼も本当はこんな風に静かに生きていたかったのに…。

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