龍の涙・鏡の血71 涙の章(3)

剛龍のひと言が思いもよらず、誤解を招いたようだ。


「ミラーだって!?」
「あいつ……生きているのか!?」
「やはり、これは全てあいつが仕組んだことなんだ!」
「最初から侵略が目的で、この国に入ったんだ!」
「あの恩知らずめ!」
「こんなことになるのなら、助けるんじゃなかった!……」
「おい…ちょっと…待て…」

ミラーの命を救い、重臣たちの反対を押し切って保護したのは……

剛龍王子………。

そういえば、剛龍さまはミラーと一緒だったはずなのに、なぜ無事に戻って来られたのだ?
やはり剛龍さまは何もかも知っていた?

ここに戻ってきたのは、俺たちを消すため……?

黒くて冷たい、いくつもの邪気が剛龍に向かってきた。剛龍にとって、それらを跳ね返すことなどわけなかった。しかし、ここでそれを使ってはならない。
「みんな…どうか、ここは…私に任せてくれ」
そう言って剛龍は頭を下げるしかなかった。だが彼らの中で一度沸きあがった剛龍への疑念や、鏡の国、中でもミラーに対する怒りや、憎しみはおさまらなかった。

ミラーを捕まえろ!

ミラーの首を取れ!

みんな、聞いてくれ!お願いだ!待ってくれ!私が、私がなんとかするから!

剛龍は彼らを押し留めようとした。これ以上、犠牲を出すわけにはゆかない。彼らの手を血に染まらせたくない。
と、そこに龍の国の兵士たちが、どかどかとやってきた。暴動化する民の鎮静にやってきたのだろうか?だが、兵士たちは民ではなく、剛龍を取り囲み、その両腕を縛り上げた。
「これは、何のまねだ!?」
「剛龍王子、この度の鏡の国の侵攻について、いくつか、お尋ねしたいことがあります」

!?

後ろ手に縛られ兵士に囲まれて歩く剛龍の姿は、まるでこの戦の首謀者であるかのようだった。


剛龍は大聖殿の奥にある宝物殿に連れてこられた。そこはその名の通り、国の宝とされているものや、重要文化財が保管されていた。その場所に軍の中枢機能が置かれているとは、何とも皮肉なものだ。国にとって最も大事なものは、民ではないのか。剛龍は憤りを感じていた。
「剛龍王子、このまま、こちらでお待ち下さい」
剛龍は板の間に座るよういわれた。背中にぞっとするものを感じたのは、ひんやりと冷たい床のせいだけではないようだ。
「軍務大臣、剛龍王子を連れてまいりました」
兵士が扉の向こうへ声をかけた。
「いま、行く」
短い返事の後、すぐに軍務大臣が出てきた。どうやら扉の向こう側にも誰かいるようであった。
「剛龍王子、ようやく戻られましたか」
「……途中、予期せぬ事態に遭いましたので」
「予期せぬ…ですか…」
「……それで…私に尋ねたいこととは?」
「私が言わずとも……聡明な王子には、わかっているのではないですか?」
「私は何も知らん!」
「……これでも黙り通すつもりですか?」
「?」
軍務大臣は自分の後ろにある扉を兵士たちに開けさせた。そこには胡蝶が眼を閉じ、横になっていた。そのうえ彼女の横には侍女ではなく、女性兵士がふたり、立っていた。
「胡蝶!?」
駆け寄ろうとした剛龍だが、両腕を兵士たちにつかまれ、その場に押さえつけられた。
「胡蝶に、胡蝶に何をした!」
「薬で眠っていただいております」
「なぜだ!胡蝶がいったい、何をしたというのだ!?」
「胡蝶様はご自分で、命を断とうとされました」
「なに!?」
「ご自分の罪を死によって、償おうと思ったのではないですか?」
「罪?」
「敵国の大将に取りいって国を売り、己だけ助かろうとした罪です」
「胡蝶はそんなつもりで、ミラーを愛したのではない!」
「そうせよと、あなたが命じた?」
「違う!」
「しかし、胡蝶様に彼の世話をするよう命じたのは、剛龍王子、あなたではないのですか?」
「!」
「……すべてはあなたからはじまっているのですよ、剛龍王子…」
「…?…」
「……剛龍王子、あなたは龍の国の人間ではない…」
「!?」
「なのにこの国で一生を終えなければならないことに不満を抱いていた。そこにやってきたのが、侵略によって力を得た鏡の国の王子だ。あなたは彼にこの国を売り、自由を得ようとした!」
「違う!私は、私が何者であろうと、私のすべてをこの国にささげるために、生きてきたし、生きてゆくつもりだ!」
「では、その証をお見せ下さい」
「証…?」
「この国に身をささげるというのなら、その身を挺して、この国をお守り下さい。民をお救い下さい!」
「………それは……つまり……?」
「鏡の国の侵攻を止める。すなわち……」


敵国、鏡の国の大将、ミラーの首を取られよ!

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この記事へのコメント

愛戦士桜
2008年01月29日 11:51
胡蝶…眠(らされて)っていたんだね…無事でよかった。
でも…すんごいピンチだがね、剛龍さまの想いはみんなには伝わらないのかな…国をこんなにされて国民が怒るのも無理ないよね…胸が痛いね……2人の王子、苦しいね(涙)
Rain
2008年01月29日 21:11
愛戦士桜★彼女の命を救うための緊急処置です。パニックにもなるよね。目の前に敵がいたし、あることないこと聞かされたし。こういう状態に陥っても、ゆるがない信念を持てる人間って凄いと思う。相当な覚悟がいると思う。
自分だったらどうする?って考えたら、「私は信じるよ」って、きれいな事をいえなくなっちゃった…。出来ることならこういう決断はしたくないよね。今日も重いレスで堪忍なぁ(笑)

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