龍の涙・鏡の血72 涙の章(4)

剛龍は仕度を整えると、父王の臥す庵へと向かった。


ここへはもう戻って来られないかもしれない。

もし、そうなったとき、この国を誰に託すことになるのか。剛龍はそれを聞き届けてから、旅立ちたかった。だが、庵の前に来たとき、そこがいつも以上にひっそりとしていることに気付いた。それは扉の番をしている小姓がひとりもいないせいではない。いつも感じる、あの強烈な気が失せていたからだ。

もしや……?

剛龍は急いで扉を開けた。そこに茂龍が座って、居た。
「……茂龍……父上は……?」
「……お感じになられませんか?」
「もしや……?」
茂龍はゆっくりとうなずいた。
先代の王である、秀龍の姿はそこにはなかった。彼は最後の力をふり絞って、強力な気の塊となり、大聖殿を守る結界となっていたのだった。
「今、この国の王は剛龍さま、あなたさまでございます」
茂龍は手をつき、深く頭を下げた。
「……茂龍、だが、私は…これから…」
茂龍は剛龍のその先の言葉を遮り、脇に置いてあった縦長の袋を手にした。
「剛龍さま。どうか、こちらをお持ちになって下さい。きっとあなたをお守りするはずです」
「茂龍!お前には見えているのか?この先、私に何が……いや、私が何をするか、お前には見えているのか?私はどうすればよい?どうすれば、この国も、彼も救うことが出来る?」
だが、茂龍は剛龍の問いには答えず、縦長の袋を手渡した。
「これはあなたとともに、龍神様から、おあずかりしていたものです。これを使うことが出来るのはあなたさま一人でございます」
剛龍はその袋の口の部分を結んである紐を解き、中のものを取り出した。

これは!?  」

それは剛龍の手にも、胸にも、ずしりと重いものであった。
「剛龍さま。あなたは我々の希望です。必ず、必ず、戻ってきて下さい」
茂龍は剛龍の手を強く、握った。


城の周りには、まだたくさんの鏡の国の兵が残っていた。剛龍はこの兵を龍の国から引き離すため、わざと彼らの前に姿を現した。

鏡の国の兵士よ!我こそは、龍の国の王、剛龍である!

探していた王族、しかも国王の出現とあって、鏡の国の兵士たちの間に緊張が走った。

「この国を取りたければ、我が首を取るがよい!その覚悟無きもの、命が惜しいものは、即刻、ここから立ち去れ!」

挑発ともとれる剛龍の名乗りに彼らはいきり立った。ここにいる鏡の国の兵士たちは、先ほどの若い兵と違い、欲望に囚われたものばかりだった。ここで王の首を獲れば、一気に位が昇格するに違いない。褒美もたんまりともらえるだろう。彼らは大きな声をあげ、いっせいに剛龍に向かって、攻め入った。

剛龍が地面を蹴って飛びあがると、どこからか艶鳥蹴狗がやってきて、彼を背中にのせた。
「な、なんだ!?あの生き物は?」
はじめて眼にする翼の生えた四足の動物の出現に、鏡の国の兵は我が目を疑った。
「捕らえてみよ!」
剛龍をのせた艶鳥蹴狗は飛翔した。鏡の国の兵は、逃してなるものかと、その後を追った。

上空と低空を交互に飛行し、また右へ左へと揺さぶりながら、鏡の国の兵を追わせた。そうして彼らとつかず離れずの距離を保ち、剛龍は漆の森へと誘い込んだ。剛龍は短剣で漆の蔦を次々と断ち切りながら、進んだ。そうとは知らない鏡の国の兵は、追ってきた勢いのまま、その森へ突入した。
「ひっ…ひぃぃぃぃっ!?」
「な、なんだ、これは!」
鏡の国の兵のむき出しになった顔や、手は漆によってかぶれ、赤く腫上がった。

剛龍は地の利を活かし、ある軍は茨の道へ導いて、その行く手を阻み、またある軍は泥の沼へ誘い込み、その足を停めるなどし、たったひとりで、誰の血も流さずに鏡の国軍の戦力を奪っていった。

剛龍は更に高く飛翔し、先を急いだ。と、眼下に無数の騎馬隊を発見した。それらは龍の国へ向かって走っていた。

まさか!鏡の国軍か!? 剛龍は低空飛行し、その隊の正体を確認した。

御旗は立てておらず、それぞれの姿がばらばらであるところを見ると山賊だろうか?
だが、その集団の先頭をゆく黒馬に跨った男、あまりにも他の賊とは身なりが違う。
あの姿……確かに見覚えがある。

長い黒髪をなびかせ、颯爽と走るあの男は!?

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この記事へのコメント

愛戦士桜
2008年01月29日 23:17
さすが剛龍さま、血を流さず戦うなんて彼だからできるんだよね。

黒馬の長い髪のお方はあの方だろうか…?

どうか よい光が見えますように…。

みんな想いは同じだろうけど恐くてしかたないよ(>_<)でも見届けるからね!
2008年01月30日 18:37
戦となると、やるか、やられるかだものね?
剛龍さまも、ミラーさまを信じているからこそ、本当は、事態をなんとか収拾したいと思っている筈だし。
本当・・・戦ってなんなんだろうね?
憎しみと悲しみしか、もたらさないものなのに。
Rain
2008年01月30日 19:47
愛戦士桜★剛龍が人を殺めるなんて、想像つかないでしょ?そうなるときは、よっぽどだよ。
桜の思っている方…だといいな(笑)一番たよりになる方だしね。どうぞ見届けて下さい。その眼差しが私を救います(笑)
Rain
2008年01月30日 19:52
SHINE★なんで人間は戦争をやめないんだろうね?私たちは戦争放棄という国で育ち、生きているから、起きる理由に鈍感になっているだけかもしれないけれど…。あんまり大きなこと、偉そうなことを言うつもりはないけれど、そういうことも含めて、この物語描いています。
チビにゃん
2008年01月30日 20:11
剛龍さま…たった一人で…頑張っておられますね(T_T)
少し離れてたから、まとめて読んだんだけどさ…もう~ホントに、どうなってるんだろう…って、読み進めて行くのが怖かったよぉ(笑)
黒髪のお方は…あの人かなぁ…。この方が救ってくれる存在になるのかなぁ。
いい方向に向かってほしい…。王子たちの笑顔が見られる日が来ることを願わずにはいられないよぉ…(>_<)あぁ~
Rain
2008年01月31日 06:40
チビにゃん★おかえり~(笑)ますます怖さ度?
怒り度?悲しみ度?レベルUPしてゆきます。
王子たちの笑顔……彼らの浮かべる笑顔と私たちの求める笑顔は違うかもしれないけれど…
救いは残したい…な(曖昧でごめん(汗))

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