龍の涙・鏡の血73 涙の章(5)

長い黒髪をなびかせ、颯爽と走るあの男は!?


東の国の長、紀長であった。


鏡の国が一方的に龍の国に攻め入ったことが紀長の耳に入ったのは、ほんの数時間前のことであった。紀長はすぐにでも兵を挙げ、龍の国を救いにゆくつもりであった。だが、国の重鎮たちはそれを止めた。
「なぜだ!なぜ、行ってはならぬ!」
「行けば間違いなく戦になります!」
「もうなっておる!私はそれを停めにゆくのだ!」
「紀長様、鏡の国が諭して聞くような国ではないこと、ご承知のはず!すれば、必ず、龍の国に加勢したとし、我が国へ攻め入って来るでしょう。我が国にはまだ、あの大国を迎え討つほどの力はございません!」
「それでは龍の国を見捨てよというのか!?」
「仕方ございません!」
「出来ぬ!それは…出来ぬ!」
「紀長様!戦になったときに、真っ先にその命を奪われ、苦しむのは、我々ではなく、民なのですぞ!」
「!」
「どうか……ここは……こらえて下さい……」
「………国としては何も出来ぬ……してはならぬということか…」
「どうか……ご辛抱下さい……」
「……ならば……私、ひとりでゆく」
「紀長様!?」
「これからちょっと忍びで、旅に出てくる。長い旅になるかもしれぬし、便りも寄越せぬ……戻ってこないことがあるやもしれぬ。その時は……その時が来たのだと心得よ。すぐに妹の紀代を長とたて、万事速やかに為せ。必要以上に騒ぎたてるな。よいな!」
そうして紀長はひとり、戦の仕度をし、龍の国へと向かったのだった。と、どこから噂を聞きつけたのか、その紀長を慕うならず者とよばれる輩たちが次々と集まり、この一団を作り上げていたのだった。


「では紀長殿は、龍の国に向かわれるおつもりだったのですね?」
「あぁ、そうだ。しかし…剛龍殿、肝心のその方が国を置いて、どこへ行くつもりだったのだ?まさか、国を捨てたのではあるまいな!?」
剛龍はこたえる代わりに、頭を深く下げた。
「紀長殿の熱き心にうたれ、剛龍、再び力が涌いてまいりました」
「……もしや、たったひとりで鏡の国へ向かうつもりだったのか?」
「…………」
「ミラーを討つつもりなのか?まさか、この戦、真にミラーの仕掛けたものと思っているのか?」
「…………」
「剛龍!?」
「紀長殿……今、この時、ここでこうして貴方とお逢いしたのは偶然だったのでしょうか?」
「なんと?」
「ここで貴方に逢う。これも、定めだったのかもしれません……」
「私は私の意志に従って来た」
「私も、私の定めに従って、ここにまいりました」
「…………」
「そういうことなのです。現在、過去、未来、そこで起きたことはすべて、自分の中の定めによって、作られてきたものなのです」
「すべては己の中でつくられていると……?」
剛龍は静かに微笑んだ。
「紀長殿……私の妹…胡蝶を憶えておいででしょうか?」
「あぁ。とても聡明な女性だと記憶しているが…?」
「龍の国へ向かわれましたら、彼女に伝えて下さい。真に人を愛するものとともに、新しい国を作るようにと…」
「剛龍、それはどういう…?」
「誠に勝手なお願いではございますが、その際は、是非とも紀長殿…東の国のお力を貸していただきたく存じます」
「剛龍……まさか、そなた…?」
「お伝えいただけますね?」
「……心得た。だが、だが、剛龍…」
剛龍は再び、艶鳥蹴狗に跨った。
「紀長殿、どうぞ、お元気で。東の国がますます栄えますよう、お祈り申し上げます」
「剛龍!待て!剛龍!!!!」
紀長のひきとめる声を背に、剛龍は空へと向かった。

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この記事へのコメント

愛戦士桜
2008年01月30日 21:01
やっぱり紀長さまだったo(≧∀≦)o
あの方が黙って見ているわけないとは思っていたけど彼も自分の国を守る立場のお方だもんね…。
剛龍さまは一人でどうしようと考えているのか、それが恐いよ(>_<)すごく恐い。
なにが1番正しいかなんて誰にもわからないよね…どうすればみんなが幸せになれるのかな…。
2008年01月30日 21:15
それぞれが一国一城の主である立場上、一度、戦が起こると自分の私情をはさめなくなるよね?ミラーさまの誤解をとくことも必要だけど今は、戦の最中だし・・・。
紀長さまが、中立的な立場になってくれると心強いですね?
チビにゃん
2008年01月30日 23:03
さすが紀長様~♪
立派な王子ばかりだなぁ。それでも…こんな事態になってしまうなんてね。
紀長様は、剛龍様が次にとろうとしている行動も察しているご様子…。この戦が、ミラー様が仕掛けたものではないだろうということも…お見通しな感じ…。
剛龍様は、胡蝶様に言葉を残されて……。なんだか二度と会えないみたい…。
また続きを読むのが怖くなっちゃったよ~(笑)
Rain
2008年01月31日 06:33
愛戦士桜★「ひと言がながすぎる」とドーモトくんにダメ出しされたので、簡単に(笑)でも簡単にいかないのが彼らの立場。友人としてなら当然のことなのにね。そーか。恐いか。ひっひっひっ…(こら!)でも目を覆った指の隙間から眺めちゃうんでしょ?続き、気になるでしょ?最後までおつきあいよろしくね♪
Rain
2008年01月31日 06:36
SHINE★なかなかねー。勝手にことをすすめてしまうと、ワンマンになってしまうし…。紀長さまには全てが終わったあと、その力を発揮していただきましょうね(って、どーいう意味?)
Rain
2008年01月31日 06:38
チビにゃん★国をつくっている、世界をつくっているのは王子ではない。民だから…。そういうことかな?それだけの覚悟で剛龍さまは向かっているのですよ…。君も怖い?でも見届けたいよね?ではよろしくお願いいたします~♪

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