龍の涙・鏡の血78 涙の章(10)
それはもう言葉でもなく、剛龍の声でもなかった。
剛龍の体に異変が起きた。ミラーを抱えていた手にはびっしりと鱗が生え、それは腕へ体へ足へ顔へと広がっていった。胴は細く長く伸び、その先に長い尾が出てきた。口は大きく裂け、長い髭が生え、ふたつの空洞がある、大きな白い龍へと変った。
龍が吠えるたびに空には雲が集まり、稲妻が光り、大雨を降らせた
そして森も街も人も、何かもかもを流した。
人間など、みな、この世から、消えてしまえ。
そうすれば、怒りも、哀しみも、憎しみも、絶望も生まれない。
剛龍、違う。それは違う。
………ミラー?ミラーなのか?……
龍の慟哭がやんだ。とたんに、黒雲は去り、雨が止んだ。
怒りが起こるのは、そこに、正義があるからだ。
哀しみを感じるのは、そこに、優しさがあるからだ。
憎しみが生まれるのは、そこに、愛があるからだ。
相反するもの同士だが、その実、表裏一体になっているものなのだ。
だから、絶望の果てには、必ず希望がある……。
……人間のいない世界……それはとてもさみしいものかもしれんなぁ……
と、ミラーの軽く握られた右手と左手から、それぞれ紅い小さな石と、碧い小さな石が飛び出し、空洞となっていた、龍の瞳へと収まった。
ミラーの体からは、まばゆい光が放たれた。その光は地上を照らし、大きな虹を見せた。やがてミラーは小さな玉となった。白い龍は大事そうにその輝く玉を抱えると天へと翔けのぼった。
山を越え、谷を越え、輝く玉を携えた白い龍は自由に空を翔けていた。
……ここは龍の国だったところや……あぁ…蛇良の姿が見える、紀長殿もいらっしゃる…………だが胡蝶は……?
彼女はまだ、深い眠りから覚めていないようだった。
と、白い龍の手の中の小さな玉の中に透き通った羽根を持つ蝶が現れた。
戻りなさい…そして為すべきことをしなさい…
その声をきいた蝶は羽根を震わせた。しばらくそこを浮遊していたが、やがて意を決したように、羽根を大きく広げると、ふっと姿を消した。
すると胡蝶の両の瞼がゆっくりと開いた。そばにいた蛇良や紀長に支えられ、起き上がると、彼女は真っ先に天を見た。
……気付いたようや……手を振っている。笑っている。それでえぇ、それでえぇんや……
白い龍は長い尾を大きく振り、空を翔けて行った。
…さて、こっちは……すっかり様子が変わっているが…国の中央に大きな湖があるところをみると鏡の国だったところか…?あぁ…どうやら、ここは全く新しい国に生まれかわったようや……うん、それでえぇ、それでえぇんや……。
剛龍。私はこうして人間の世界を映し出す鏡となろう。お前はこれを見て、行き過ぎることがあれば、すぐにそこへ向かい、この鏡に映る己の姿を見せてやってくれ。自分がどれだけ醜いことをしているか、目の当たりにすれば、その行いを悔い改めるだろう。
……心得た……
我々に出来るのはそれだけだ。
……為すのは、人間。人間のこころ……
ふたりで、ずっと一緒に、見守ってゆこう。
新しい明日を迎えるために……
龍の涙・鏡の血 (完)
剛龍の体に異変が起きた。ミラーを抱えていた手にはびっしりと鱗が生え、それは腕へ体へ足へ顔へと広がっていった。胴は細く長く伸び、その先に長い尾が出てきた。口は大きく裂け、長い髭が生え、ふたつの空洞がある、大きな白い龍へと変った。
龍が吠えるたびに空には雲が集まり、稲妻が光り、大雨を降らせた
そして森も街も人も、何かもかもを流した。
人間など、みな、この世から、消えてしまえ。
そうすれば、怒りも、哀しみも、憎しみも、絶望も生まれない。
剛龍、違う。それは違う。
………ミラー?ミラーなのか?……
龍の慟哭がやんだ。とたんに、黒雲は去り、雨が止んだ。
怒りが起こるのは、そこに、正義があるからだ。
哀しみを感じるのは、そこに、優しさがあるからだ。
憎しみが生まれるのは、そこに、愛があるからだ。
相反するもの同士だが、その実、表裏一体になっているものなのだ。
だから、絶望の果てには、必ず希望がある……。
……人間のいない世界……それはとてもさみしいものかもしれんなぁ……
と、ミラーの軽く握られた右手と左手から、それぞれ紅い小さな石と、碧い小さな石が飛び出し、空洞となっていた、龍の瞳へと収まった。
ミラーの体からは、まばゆい光が放たれた。その光は地上を照らし、大きな虹を見せた。やがてミラーは小さな玉となった。白い龍は大事そうにその輝く玉を抱えると天へと翔けのぼった。
山を越え、谷を越え、輝く玉を携えた白い龍は自由に空を翔けていた。
……ここは龍の国だったところや……あぁ…蛇良の姿が見える、紀長殿もいらっしゃる…………だが胡蝶は……?
彼女はまだ、深い眠りから覚めていないようだった。
と、白い龍の手の中の小さな玉の中に透き通った羽根を持つ蝶が現れた。
戻りなさい…そして為すべきことをしなさい…
その声をきいた蝶は羽根を震わせた。しばらくそこを浮遊していたが、やがて意を決したように、羽根を大きく広げると、ふっと姿を消した。
すると胡蝶の両の瞼がゆっくりと開いた。そばにいた蛇良や紀長に支えられ、起き上がると、彼女は真っ先に天を見た。
……気付いたようや……手を振っている。笑っている。それでえぇ、それでえぇんや……
白い龍は長い尾を大きく振り、空を翔けて行った。
…さて、こっちは……すっかり様子が変わっているが…国の中央に大きな湖があるところをみると鏡の国だったところか…?あぁ…どうやら、ここは全く新しい国に生まれかわったようや……うん、それでえぇ、それでえぇんや……。
剛龍。私はこうして人間の世界を映し出す鏡となろう。お前はこれを見て、行き過ぎることがあれば、すぐにそこへ向かい、この鏡に映る己の姿を見せてやってくれ。自分がどれだけ醜いことをしているか、目の当たりにすれば、その行いを悔い改めるだろう。
……心得た……
我々に出来るのはそれだけだ。
……為すのは、人間。人間のこころ……
ふたりで、ずっと一緒に、見守ってゆこう。
新しい明日を迎えるために……
龍の涙・鏡の血 (完)
この記事へのコメント
二人とも器が大きいなぁ。って思いました。
今の世の中、こういう気持ちで民を国を思う政治家いないもんね?
人間を信じる気持ち・・・神の化身となったミラーさまと剛龍さまなんだね?
うんうん。泣けるよ・・・。
Rainちゃん、素晴らしい物語を読ませていただいて
ありがとうです♪お疲れ様でしたぁ!!
きっといつかまた……会えるよね、そのときは幸せになってほしい。
「怒りが起こるのは、そこに、正義があるからだ。
哀しみを感じるのは、そこに、優しさがあるからだ。
憎しみが生まれるのは、そこに、愛があるからだ。
相反するもの同士だが、その実、表裏一体になっているものなのだ。
だから、絶望の果てには、必ず希望がある……。」
心にしみる言葉だね、優しいから悲しみが生まれたり、正義があるから憎しみが生まれる…人はそうやって生きてゆくんだよね。
Rain、お疲れ様でした、そして「ありがとう☆」
剛龍さまとミラーさまは、ひとつに戻った。そして、ずっと人間を見守っていくのですよね。
希望。胡蝶のことかな…なんて。
ファンタジー世界だけで通用しうるキャラクターがありますよね。まさにミラー王子、剛龍さまのような正義感の強すぎる人物が、まさにそう。
いろいろ考えさせられる物語でした。最初から読み直そっと…お疲れさまでした。
この龍神様が見守ってくれてれば、世界は安泰だよ。
人間には、愛があるから憎しみが生まれ、戦争も起こるのよね。なんか深いのぉ…。
今日で最後かぁ。まだまだ王子達の活躍が見たかったなぁ。名残惜しいよ……。
ともかく、最終回までお疲れ様でした。次回作も期待してます♪
私達にはある意味、ちくんとくることだよね。
最初から!あひゃひゃひゃ、もーヒマでしょーがない!ってときにどーぞ(笑)
そだね。ふたりの番外編、面白そうだね♪