Peace!1

お江戸みたけりゃ、早良へござれ。早良本町、江戸優り――――

東京から高速道路を東へ走ること、およそ二時間。そんなところに水郷、早良はある。

江戸時代の早良は、その水運を利用して大きく発展し、かなりの経済力を持った町人が揃っていた。取引先である江戸に影響を受け、そこに優るような町をつくり、また山車祭りにおいては江戸以上に華やかなものをと活気に満ち溢れていた。

が、現在のこの町は、さして大きな産業があるわけでもなく、坂東太郎という別名を持つ川の向こうにある町のように、大企業を誘致できるような土地もなく、発展を続ける周囲の町々に比べると、どこか取り残されている感があった。

何もない町が生き残るためには、観光名所を作り出すしかなかった。

この町の中心を流れる川の西側には政事(まつりごと)をつかさどる機関が集まり、そこは本宿(ほんじゅく)と呼ばれていた。東側には祭事(まつりごと)、いわば街の文化が集まっていた。ここは新宿(しんじゅく)と呼ばれ、桜の美しい神社や、明治時代に建てられ、今もその姿を残す銀行、そして幕府の命により、歩いて日本地図を作ったという伊納忠敬の旧宅が残っていた。川べりにある忠敬の旧宅を中心に、その辺りには古い民家が並び、江戸の情緒を色濃く残していた。その一帯を『小江戸巡り』として、観光地に仕立てなおし、やっと最近、ぼちぼち活気が戻りつつあった。


その川べりにある古い民家の中に、手焼き煎餅の店、香月堂(かづきどう)はあった。

香月竜次(かづき りゅうじ)はそこの七代目である。

地元の高校を卒業後、ちょっとしたわけがあって、すぐに家業を継ぎ、師匠である祖父の裕次郎のもとで煎餅を焼き、そろそろ三年になる。最近、ようやく煎餅を反らさず、割らず、きれいな満月の形に焼くことが出来るようになってきた。形だけなら師匠の焼くものと遜色ない。だが、まだ割ったときのあの「パリッ!」という音は、師匠の域に達していない。

それは年季の違いだろう、と竜次は思っている。

祖父は婿として、この家に入ってからかれこれ40年以上も焼き続けており、その一生を煎餅に捧げてきたと言っても過言ではない。そんな人と較べられては、たまったものじゃない。だからといって、それに奮起し、いつか師匠を超えてやる!と、思うほど、竜次は煎餅に熱い情熱を捧げているわけではなかった。むしろその逆だった。

毎日が同じことの繰り返し、刺激のない退屈な日常に飽きている二十歳の青年は、いつか、ここを出て、何かをしてやる!


と、その胸のうちだけで、ただ漠然と思っているのであった。

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この記事へのコメント

愛戦士桜
2008年07月09日 10:21
新連載開始 おめでとう!!!!
主人公竜次はお煎餅屋さんの跡取り息子なんだね☆
これから彼のまわりでどんな人たちが動き始め、何が巻き起こっていくのか でら楽しみ~☆
満月型の煎餅 食べたい!!!!香ばしい香りが漂ってきたよ♪
SHINE
2008年07月09日 15:17
今までの作品とは、一味違う・・・と思ったら、おせんべい屋の息子さんの話なのねぇ?
これからが、楽しみな展開です。
2008年07月09日 19:42
煎餅屋さんの息子の香月竜次さんが主人公か。
いやぁ~前作とはガラリとテイストを変えたねぇ。
竜次さん、いったいどんな人物なのか、楽しみだなぁ。
二十歳の青年に煎餅屋は、退屈かもね。
Rain
2008年07月09日 20:26
愛戦士桜★いらっしゃいませ~♪もちろん、竜さん(笑)がメインですが、あの方も当然、出演しますからね~♪
どっちがどっちか(笑)わかる…はず。ってか、もうわかったって?ホームドラマといえばお食事シーンだよね?だから今回は結構、食べ物とか季節感とかを意識して書いています。読んでたら小腹空くかも(笑)
Rain
2008年07月09日 20:32
SHINE★いらっしゃいませ♪ひと味もふた味も違うよ(笑)まず、今回は関東ローカルが舞台なので、関西弁を使う人物はいっさい登場しません。すいません。KinKiじゃないですね(笑)こういう役を演じたら面白いだろうなぁという、勝手な願望で描いております♪
Rain
2008年07月09日 20:37
チビにゃん★まいど!うん!がらりと変えたよ~(笑)前回のはある意味、大冒険だったからね(笑)今度は近場でのんびりすることにした。(夏休みの旅行かよ!)竜さん、君の眼にはどう映るかな?マニア向け(何の?)シーンもたっぷり準備してますので(笑)良かったら、妄想の足しにして下さい(^^♪
てるひ
2008年07月12日 11:20
こんにちは。連載開始めでとーです!いつも周回遅れですいません。
その街は、今、夏祭りの最中ですね。お祭りには行ったことないけど、あやめの季節に行ったことがあります。お煎餅やさん?そんな男前(?)なひとが焼いてるなら、食べたかったな。
満月をわる時の快感…
ホームドラマということは、街を出るんじゃなくて、ここで物語が展開されるんですね~おいしいもの、いっぱい出てきます?次回が楽しみです
Rain
2008年07月12日 16:21
てるひちゃん★へい!いらっしゃい!あんど、ありがとー♪そうなんです、まさに香月堂のある(実際はないが)あたりで夏祭の真っ最中です。これはフィクションなので夏祭は描きませんが…お祭は物語の中でも重要ポイントです(笑)そうでーす。物語の中心はここ。本当においしいものって何だろーな?と、思いながら書きました(^O^)

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