Peace!15

これが朝御飯!?

茶の間に一人分の朝食が用意されていた。ご飯、わかめと豆腐の味噌汁、焼き鮭、卵焼き、納豆、夏野菜の漬物と、その質、量ともに朝食にしては豪勢過ぎる。
「ご飯のおかわりもあるからね、遠慮なく食べてね」
舞子は軽い調子で言うが、朝はコーヒー一杯がやっとの光助にこの量とメニューは重いものだった。
「……舞ちゃん、ごめん、おれ、ご飯いいやー」
「あ、やっぱり?だから言ったのよ。光助くん、朝はパンに違いないって。でも、お母さん、聞かなくて…」
「いや、そーいうわけじゃないんだけど…朝飯食べる習慣って、なかったから…うん、悪いね」
とはいえ、全く何も口にしないのは身体に悪いので、さらさらと流し込める味噌汁だけ口にした。自分で作るものとは何かが違う。これが俗に言う家庭の味というものなのだろう。
「他のみなさんは?」
「もうお店に出ているわよ」
舞子はお茶を入れながら、茶の間の向こう、廊下をへだてたところを示した。
「舞ちゃんは?仕事、いかなくていいの?」
「あたしは今日、有給休暇取ったから~♪」
この後、光助に街を案内してくれるという。
「有給休暇!会社員っていいねー」
本業(…といえるかどうかわからないが…)以外に昼と夜、アルバイトを掛け持ち、休みは週一回、休めば無給という生活をしていた光助にとって、休んでも給料がもらえる会社員という職業は魅力的に見えた。
「そーお?あたしは会社員よりも腕一本で生きているような人の方が魅力的にみえるけどな」
「うん、それは、おれもそう思う」
だからここの若旦那……つまり、おれの従弟はなかなか凄い奴だと思う。

昨夜、はじめて会った従弟は高校を卒業してすぐに煎餅職人の道に入ったそうだ。口をきゅっと結んでこちらを見据えるときの表情は剣の練習に勤しむ片肌脱ぎの若武者を想像させた。今も彼は店の中に設えてある焼き場で、ひたすら煎餅を焼いていた。

香月堂の煎餅生地は昔からのなじみの生地屋から搬入されている。米の品種、つき方は年に一度、新米が出た時期にそこの主人と相談して決める。そこから届けられた煎餅生地はまず焙炉(ほいろ)と呼ばれる、オーブンのようなもので乾燥させる。ここでの乾燥が足りないと煎餅は反り、割れ、きれいな月型にはならない。ここまでの作業が現在、祖父ある裕次郎が行っている。
煤炉で乾燥させた生地は四角い大きな火鉢の上に網を乗せたものの上で一枚一枚、丁寧に焼かれる。炭は持ちがいい備長炭。焼きあがったものは大きな皿の上にあげ、そこに秘伝の醤油だれを刷毛で塗ってゆく。
その後、一旦、火鉢の上に下げられた籠に移し、備長炭の遠い熱で再度乾かす。出来上がったものは袋詰めにされ、口を機械で封じたら、お土産用の煎餅の出来上がりだ。形の悪いものはひとまとめにし、保存用の容器にいれられる。それは量り売りすることもできる。また手焼きの体験も可能で、その時は竜次が側にいて、つきっきりで指導をする。自分で焼いた煎餅を店の中に設けられた、小さな喫茶スペースでいただくことも出来た。

光助は店の外から、焼き場の様子を見ていた。香月堂の前の道路は掃き清められ、窓はピカピカに光っていた。
「光助くん、お待たせ~、それじゃぁ行こうか?」
日傘を差しながら、舞子が出てきた。
「うん、あ、みなさんにもご挨拶しておかないと…」
光助は窓ガラスをとんとん、と叩いた。こちらに背を向けて煎餅を焼いていた裕次郎が振り返った。続いて煎餅を袋に詰めていた良子が顔をあげた。光助はふたりに軽く会釈をした。良子はほんの少し頭を下げるとすぐに仕事に戻った。裕次郎は片手をあげて応じた。肝心の従弟は……というと、気づいているのか、いないのか?顔をあげようともしない。

つまんねーの!

光助は窓にぴったりと張り付き「こっち向けよ!」と念じた。と、それが通じたのか、竜次がふっと顔をあげた。光助はうれしさと驚きのあまり、思わず変な顔をしてしまった。しかし竜次はにこりともせず、煎餅を返すための長い箸を置き、代わりにその手に雑巾を持って外に出てきた。そして、

どいてください

ぶっきらぼうに言うと、光助の手垢がついた窓を磨き始めた。

な………

なんじゃいっ!?この嫌味たっぷりの突っ込みはぁーーー!


でも……


おれ、こーいう攻められ方……


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この記事へのコメント

SHINE
2008年08月31日 21:42
お煎餅の焼き方の描写が、素晴らしいね?ちゃんと調べ上げられているんだなぁって♪
小説を書くときには、そういう資料とか参考にするのが、必須ですよねぇ?私は行き当たりバッタリなので、だから煮詰まるのよねぇ・・・。(笑)
光助くんは、やはり竜次くんの母親から、煙たがられているようで、切ないです。
それにしても、光助くんの、竜次くんに対する想いが気になります。
好きなんだなぁって。え?!どういう好きなんだろう。
愛戦士桜
2008年09月01日 10:36
ほんとに豪華な朝食!!!!コースケがいらないなら桜がいただくし(笑)
ぎゃー手焼きの体験!!!!しかもリュージが側にいて、つきっきりで指導をする!!!!はいこれいただき!!!!
桜、体験してー手とり足とり教えてもらって♪
自分で焼いた煎餅を店の中に設けられた、小さな喫茶スペースでいただくのね(なんやかや質問してリュージと一緒)笑
コースケ、イケズされたねー喜んでるし(笑)
このせんべいやさん、リュージとコースケ 2人のイケメン兄ちゃんが揃い踏みときたらまたたくまに大評判になるんでない?桜だったら足しげく通うわ!
Rain
2008年09月01日 19:38
SHINE★これの初稿あげたとき(数年前だが)実際に手焼き煎餅屋に取材に行ったの。その時の情景とネットの文章や写真から香月堂を創造しました(笑)あまりにもベタな返し方では光助さん、満足しません。この人、ちょっと(?)変わってるから(笑)関係ないけどBlogpetの下の広告…私のBL本宣伝になっているのを見ることが多いのだけどオーナーの趣味を反映してるの?(え?)
Rain
2008年09月01日 19:45
愛戦士桜★しっかり食べてしっかり働く。それが香月家の決まりです。こんな田舎ですから?竜さんの存在もこの近辺にしか知られていないわけですよ(笑)ま~その辺りのドタバタ?も展開予定♪光さん、冷たくされればされるほど燃え(萌え)ちゃう人みたいっすよ(え?)
この人…大人しく煎餅焼いていられるかしら(笑)
2008年09月02日 22:19
にゃはは♪竜さんは、光さんに振り回されっぱなしだものね。ちょっとムッとしてるんだろうな(笑)
んでも…竜さんの冷たい態度も、光さんには全然堪えてないんだね。そういう攻められ方が好きなんて…(笑)いやぁ~面白い人だなぁ…光さん♪
Rain
2008年09月03日 21:59
チビにゃん★竜さんがイケズ(笑)な理由それは…また後ほどね♪光さんが竜さん(…とは限らないけど、これからは彼…になるのかな?)にちょっかい出すのも、いちおー理由付けはあるの(笑)でもそれもまた後ほど~♪
さぁ~光さんが街に出て行くよ~!!

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