Peace!17

ふたりは神社でお参りをし、売店でジュースを買い、木陰のベンチに腰掛けた。

「竜次はね、あたしと違って勉強も出来るし、運動も出来る…そのうえ人当たりもいいから近所の評判も良くて、お母さんにとっては自慢の息子なわけ」

そういう舞子にとっても竜次は自慢の弟なのではないだろうか?

「竜次がちょっとでも『体調悪い』とか言おうものなら、すぐにお布団敷いて休ませちゃうし、帰りが予定より遅くなったりしたら、もー大変。事故にあったんじゃないかって、大騒ぎなの」

彼女が気にしているのは母親の度を越した竜次への愛情ではなく、もっと別のことだ。

「うちはね、竜次さえいればいいの。あたしなんか別にいなくてもいいのよ」

ほら……ね?

「早く相手見つけて嫁に行くなり、なんなりして、出て行けって…」
「出て行けって、そう言われたの?」
「……そうは言われてないけど………なんとなく…そんな感じ…」
「そんな感じ…な、だけなら、出て行くことないよ」

光助は母親に「出て行け」と言われた。

小学校、中学校と家庭訪問をされるたびに「家庭環境の改善」を進められた。だが母は頑として受け入れなかった。自分の育て方に間違いはないと、根拠の無い自信を持っていた。現に光助は義務教育の間、全く問題も起こさず、むしろ優秀な生徒として学校生活を送り、卒業した。難関といわれた都立の高校にだって合格した。
そう、光助も母にとっては自慢の息子だった。そのまま、ずっと自慢の息子を演じていれば良かったのかもしれない。でもその時の光助にはそれが出来なかった。

自分を裏切り続けるか、親を裏切るか。

結果的に光助は後者を選ぶことになった。そのとき、彼女は自分の息子に向かって、

「親を裏切るような子に育てた覚えはない!出て行け!」

そう言ったのだった。

売り言葉に買い言葉で光助は家を出た。それ以後、ほんの目と鼻の先に居たにもかかわらず、そこに戻ったのは母が亡くなってからだった。そこには光助が出て行く前に使っていた、ご飯茶碗や箸、高校の教科書、ノートがそのままの形できちんと残してあった。彼女はずっと光助が戻ってくることを信じて待っていたのだった。

「例えそう言われても、本気でそんなこと思ってる親、どこにもいないから…自分で出るって決めない限りは、出て行く必要ないよ」
「……うん……ありがと……光助くん……やさしいね」
舞子はハンドタオルを取り出し、涙をぬぐった。
「やさしい……?いやーそれは、どーかな?」
女性にそんなことを言われたのははじめてだったので、なんとなくむずがゆく、照れ臭くて、持っていたコーラを一気に流し込んだ。炭酸が喉の奥で勢いよく弾け、光助はむせてしまった。
「やーだ、もぉ大丈夫?ほんと光助くんって、不思議ちゃんねー」
舞子が泣き笑いしながら、光助の背中を軽くさすっていた時だった。神社脇の道路から、クラクションがふざけた調子で鳴らされた。業務用の白いワゴン車で中には男性が乗っていた。

おぅおぅ!昼間っからイチャついてる奴がいると思ったら、舞子か!」

「光助くん、変なオヤジきたから、行こう」
「オヤジ?」
「お?なんだなんだ?デートか?」
「そうよ~♪これ、あたしの彼氏なの~、いい男でしょ~♪」
舞子は光助と腕を組んで歩き出した。体に伝わる舞子の体温は高く、頬も少し赤くなっている。

お、おいっ!ちょっと、そこのふたり!待て! 」

「舞ちゃん、待てって、言ってるけど…いいの?」
「いいのいいの、相手にしないで」
「舞子!忘れ物してるぞー!これ、お前らのじゃねーのか?」
はっと振り向くと、ふたりが座っていたベンチにさっき買い求めた花が残されていた。
「おれ、取ってくるよ」
光助は舞子の腕をするり外すと、戻って行った。店の名前の入った包装紙にさっくりと包まれた花を手に取ると、光助は白いワゴン車の方へと歩み寄った。車体には長峰酒店と書いてあった。
「ありがとうございました」
「あ、あぁ…いや…」
運転席にいる男性の年齢は三十を少し越したくらいか?光助よりは上だろう。野生的な顔立ちで若い頃はいかにもやんちゃをしてきたような雰囲気を漂わせている。冷房は切ってあるのか、窓は全開にしてあり、首にかけたタオルでひっきりなしに汗を拭いている。よく焼けた腕にはトレーニングで創り上げたような人工的なものではなく、毎日の力仕事によって出来た筋肉がしっかりとついていた。
「な…なんだよ……」
「兄さんもなかなかいい男ですよ♪」
「……へっ?」
「じゃっ♪またっ♪」
光助はひょいと片手をあげると、舞子の元へ走っていった。

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この記事へのコメント

SHINE
2008年09月06日 11:12
家族関係って、一番の難題だと思う。私も、「何度、出て行け!」言われたことか・・・。そのたびに傷ついていたし。私の場合、病気のことも手伝ったから、家族としては、心配だったと思うから、お互い修羅場になるのよ。
そう。出て行く場所なんてない。

だから、光さんの言葉がの心、胸に響いたよ。。。
SHINE@日本語変だよ私!
2008年09月06日 15:49
上の文章・・・読み返すと思いっきり変!いつものことだけど・・・。
それはさておき、長峰酒店の、いい男って・・・。
あの人しかいないでしょう!とニヤニヤしちゃった。
光さん・・・あまり訳の分からない事言うと、噂が噂を呼びかねない?(笑)
ひょうひょうとしてるけど、やっぱり光さんは、影があるよね?そこが、魅力的なんだけど。
Rain
2008年09月07日 13:58
SHINE★そうぉ?気持ちが伝わってきたから、ちっともおかしいと思わなかったけど?なんせこの物語は私の描く、ホームドラマだから(笑)優しいだけじゃなくて、痛い言葉もいっぱい出てくるかも。でもそんなもんだよね家族って…。そうそう長峰酒店のワイルドさんといったら…?ねぇ、あの方ですよ♪
2008年09月08日 00:31
家族と毎日顔を突き合わせていると色々あるよね。ウザイと思うこともある…。でも、家に居るお蔭でKinKiさんのことにお金が回せるという甘い誘惑もあり、実家にしがみついております♪(←なんて奴だ)
光さん…そういう影があるところが…いっそうカッコ良く見せてくれそう。面白くて変な人ってだけじゃなく…(^o^;そういうギャップが堪ら~ん!
冗談でいいから光さん相手に「あたしの彼氏なの」とか言ってみたいもんだなぁ…(←そこに反応するか)
長峰さんも居るしねぇ…。こんな男前さんばっかの町に住んでみたい…。
2008年09月08日 07:54
川沿いの道も神社も、デートコースでしたよね(笑)
舞子ちゃんも、家を出ると、お母さんと親友になれると思います…わたしが、そうだったので(一緒にするな?)
自分を裏切り続ける。しんどいですよね。光助さんのお母さんも、息子が進もうとする道が、たとえ優等生のそれとかけ離れたものでも、認めたいって葛藤してたんだろうね。
不思議ちゃんな光助さんの「ワンダフル」発言やら、その前の言動から、危険(笑)な匂いを嗅ぎ取っちゃうンだけど、この物語はホームドラマですよね?…と再確認してみた。
愛戦士桜
2008年09月08日 13:53
舞姉ちゃんもなんか抱えてるのね…。
長峰のあんちゃん、30過ぎ…たような感じなんだ♪彼もまぁ、いろいろ絡んでくるんだろね、それも楽しみ☆
世渡りうまそうなコースケもおかんには売り言葉に買い言葉で家出ちゃったのねー。楽しみがたくさんありすぎてウハウハするよ(笑)
Rain
2008年09月08日 20:28
チビにゃん★家族だから言えること言えないことってあるよね?家族じゃないから話せることもあるし…。
ふふふ(笑)私たちにはギャップに映るところも本人にしてみればそれが本当の自分の姿なんだから面白いよね。
舞ちゃんも従弟だから平気でそんなこと言えるんだよ♪
本当にその人の事が好きだったりしたら逆に、言えないよね?反対の行動、取っちゃったりするよね(謎♪)
Rain
2008年09月08日 20:38
てるひちゃん★えへへ♪そう学校の帰り道=駅までのプチデートコース(笑)うん。適度な距離が心地よい…そういうことあるよね。「優等生のそれとかけ離れたものでも、認めたいって葛藤してたんだろうね」今はまだ言えないけど(笑)おかーさん、悩んだと思う。きっと「ごめんね」って言って逝きたかったと思う。それは光助も同じでね…。うん♪ホームドラマよ。でも作者は貴腐人のRainだから~(笑)
Rain
2008年09月08日 20:41
愛戦士桜★お家を出て行きたいと思いつつ、店を継ぐ気の無い弟にまかせるのも酷だし、でもおかーさんは私を認めてくれないしね。光助の家出の原因とか、おかーさんがこんなに竜次に溺愛する理由とかね…いろいろ有り過ぎて(笑)ごめんねー、頭を整理するの大変だね。でもそれは片隅に置いといて、場面場面を笑って楽しんでくださいな~♪長峰のあんちゃんもえぇ人でっせ~♪

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