龍の涙・鏡の血74 涙の章(6)

一方、ミラーは馬を走らせ、龍の国への道を急いでいた。


ついて来るなと言うのに、「その後をどこまでもついてゆきます」という言葉どおり、マーティ少佐は必死になって追って来た。が、みるみるうちに、その間は離れ、ミラーの後ろには、もう誰も、何も見えなくなっていた。


もしトーヤがミラーの兄だとしたら、彼が死んだことで自分の呪いは解けたはずだ。
にも、かかわらずミラーには全く何の変化もなかった。彼は兄ではなかったのか?
それとも、次に自分の命を狙う相手との戦いで、はじめて、呪いが解けたのかどうかが、わかるのか?いや、もう、そんなことはどうだっていい。今、ミラーにとって大切なのは、自分の命などではなく、龍の国とそこに残してきた愛しい人々のことだった。

と、走るミラー目掛けて、どこからか一本の矢が飛んできた。その矢はミラーの長い髪をかすめるようにして抜け、道の脇の林の中へ消えて行った。

この矢の速さ、この正確さは……?

ミラーは馬の足をとめ、あたりを見回した。すると今度は頭上から、矢が馬の足元へと落ちてきた。

剛龍!?

艶鳥蹴狗に跨った剛龍がミラーに向かって弓を構えていた。
「剛龍!聞いてくれ!これは誤解なんだ!」
だが弁解など聞きたくない。とでもいうように剛龍は矢を放ってきた。ミラーは射ち込まれる矢を剣で払い落とした。

おかしい…変だ…。

弓の名手ともあろう剛龍の、この矢の軽さ何だ?それより、何よりも、向かってくる矢から全く殺気を感じない。では、何のために、俺を射ってくる?威嚇のためか?いや、何かある。きっと、何かあるのだ。
「剛龍、どうなった?龍の国はどうなっているのだ!蛇良はどうしている!?胡蝶は、彼女は無事なのか!?生きているのか!どうなのだ!教えてくれ!」
「鏡の国の王子、ミラーよ!このまま大人しく、祖国へ戻れ!」
「俺はもう国へは戻らぬ!」
「戻れ!そしてそなたの国を再建するのだ!」
「私の国……私の国は鏡の国ではない!私は龍のく…!?」
と、これまでとは明らかに違う、重く鋭い矢がミラーの頬をかすめた。もうほんの少し、その先がずれれば、間違いなく、ミラーの右目を貫いただろう。彼は正確にそこを外して射ってきたのだ。
「やはり、そうであったか、ミラー!そなたの本当の狙いは龍の国だったか!」
「!?」
「神聖なる龍の国に、狡猾な鏡の国の人間のその汚い足、一歩たりとも踏み入れることは許さん!」
剛龍が再び、矢を構えた。その先はまっすぐにミラーに向かっていた。
ミラーは構えていた剣をおろした。

引けるものなら、引いてみろ! 」



「お前に、それだけの度胸があるのならな!」
ミラーは一歩、また一歩と剛龍に近づいていった。剛龍の腕がぴくりと動いた。

と、突然、


パン!パン!パン!


という乾いた銃声が、ミラーの耳に届いた。
!?
その直後、悲しい胸をえぐる艶鳥蹴狗の高い声が空に響いた。

「ミラー将軍!ご無事ですか!」
ようやく追いついたマーティが眼にしたものは、危機に追い込まれている、ミラーの姿だった。
「マーティ!なんてことを!」
「あぁしなければ、ミラー将軍がやられておりました!」
「あれはただの脅しだ!彼には私を殺すことはできん!」

空中の艶鳥蹴狗はもがきながらも、羽根を動かし、逃げようとしていた。艶鳥蹴狗の背中に乗っていた剛龍は振り落とされないように必死に捕まっていた。が、艶鳥蹴狗は力尽きたのか、その翼の動きを止めた。



剛龍――――――――っ!  」

剛龍をのせた艶鳥蹴狗はそのまま、まっさかさまに落ちていった。

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