テーマ:Peace!

Peace!93

窓の外をぼんやりと見ていた。 車高があるものだったので信号待ちしていると横に並んだ車の中がよく見えた。クリスマスの翌日だからだろうか。カップルが多いような気がした。 みんな幸せな夜を過ごしたのだろうな。 そういうおれもそのひとりなのだけど……。 光助は隣にいる伊織の横顔を見上げた。美術室においてある彫像みたいな輪郭を…
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Peace!92

こんなときに!? ここで!? 「早く、出ろ」 伊織が静かだけど厳しい口調で言った。光助は何もかも正直に話そうと覚悟を決めて電話に出た。 「もしもし……」 「光助?」 「はい」 「うちに帰ったんじゃないの?」 「帰りました」 「帰った? じゃぁ、エリに会えたんだね?」 「………いいえ」 「どうして?」 「………
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Peace!91

脱衣所に置いてあった、ちょっと黴臭いタオルで髪と体を拭いた。 どうもこのタオルは長い間どこかに仕舞い込んであったようだ。 まぁ、それはいいとして…… おれ、着替え持ってきてないじゃん!?  バスローブもさっき伊織が羽織っていたもの、一枚きりのようだ。ひとり暮らし…の、はずだから、それは当然だと思う。逆にペアで…
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Peace!90

★ ← 今日はこのくらい? 腰のあたりが重くて、だるくて、自分の体が自分のものではないようだった。 自分の体が自分のものではないような感覚になるのは、昨日今日、はじまったことではない。 物心ついたときにはもうすでに感じていた。普段はあまり気にしないようしているけれど、時折、猛烈にそれを意識するときがある。道を歩…
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Peace!89

★★★★★ ← 入室注意? 舌を絡ませたまま部屋になだれこみ、そのまま床の上にふたり倒れ込んだ。 玄関先ですでにサンタの赤い上着とTシャツは脱がされていたので、裸の背中がまともにフローリングにあたって痛かった。反射的に腰を少し浮かすと、背中と床の隙間に伊織の手がすべりこんできて、サンタの赤いズボンもその下に履いていたジャ…
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Peace!88

★★ ← ……注意度は……このくらい…かな? どれくらいの間、唇を合わせていたのだろう。 気が遠くなるほど長い時間だったかもしれないし、ほんのわずかだったかもしれない。 唇が離れても膝はがくがくと震えたままで自分の足で体を支えていることが出来なかった。光助は伊織の背中に腕をまわしてしがみついた。いい匂いがし…
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Peace!87

心はずませてやってきたけれど…… あいにく部屋の灯りは消えていた。 しばらく部屋を見上げていた光助だったが思いきって階段を上った。そして息を整えてドアをノックした。 やっぱり返事はかえってこなかった。 そりゃ、そうだ。仕事に出かけている時間だもの。 年末だもの。水商売はかきいれどきだもの。 それでもも…
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Peace!86

クリスマスイブの昨日とクリスマスの今日、サンタクロースに扮した光助は洋菓子店の店先でケーキ売りの臨時アルバイトに精を出していた。 たくさんの家族連れや恋人たちが足をとめ、ホールケーキを買い求めて行く。これから家に戻ってあるいはどこか予約したホテルに泊まってそのケーキを囲むのだろう。 「……いいなぁ……」 光助にはこ…
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Peace!85

そうして光助は家を出、この街の住人として暮らすようになった。 昼間は『Blue』で働き、夕方からは花屋、洋菓子店の配達(キャバクラやホストクラブに来た客の誕生日祝いに急遽注文の入った花束やホールケーキを店に届けに行くのだ)、週末は東池袋の男子校カフェ(お店は男子校の文化祭という設定で、ウェイターは全員、架空の高校の制服を着用し…
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Peace!84

アルバイトの時間がせまっていたので、光助はその足でまっすぐ『Blue』に向かった。 「おはようございます」 準備中の札がかかっているにもかかわらず、数人の常連客がカウンターに座り、談笑していた。ダークスーツに身を包んだ彼らは大通りの向こう側に軒を連ねるホストクラブの従業員だ。 女性相手の仕事だからといって、ホストが全員…
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Peace!83

エリさん、おれ……。 「別にお金のためだけにアルバイトしていたわけじゃないんだ…」 「働くのが好きなの?」 「……好きっていうか……そこだと……ありのままでいられるっていうか…」 「何それ?」 ……エリさん……おれね……。 「……何?どうしたの?」 エリさんなら笑い飛ばしてくれるはずだ。そう思うものの、…
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Peace!82

今朝、光助が揃えて出てきたエリさんのピンヒールがなかった。 エリさんの布団はそのままで、その上に彼女が寝巻き代わりにしているロングTシャツが丸めて放ってあった。 いつも枕元に置いてある携帯電話はなかった。 おれ……捨てられた? 茫然と立っていた光助の耳に、カンカンカンカンと、階段を上って来る音が聴こえた。 …
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Peace!81

授業がはじまった直後のしんとした校舎に、バタバタとした足音と「上原くん!待ちなさい!」という豆もやしの声はよく響いた。 それが問題生徒として知られている者の名前であれば「いつものことか」と誰も気にもとめなかっただろう。だが追いかけられている生徒が「地味だけどかっこいい、女子に大人気の上原くん」であり、ゆうべの学校裏掲示板の『話題の…
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Peace!80

何がそんなにいけないことなのか、光助にはわからなかった。 怒鳴ったあと生徒指導教諭は雑誌を乱暴に閉じた。そして隣の教頭と何か目配せをし、お互いにうなずいた。 「上原、いいか。これはお前ではない」 「?」 「そういうことにする」 「……そういうことって……?」 「これは自分じゃないと答えろ。いいな?」 「なんでそんなこと…
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Peace!79

校舎の西側にあるこの棟は、授業がはじまったばかりのこの時間はまだ陽が当たらずひんやりとしていた。 しんとした廊下をひとりで歩いていると後ろからパタパタと足音が聞こえてきた。振り返ってみると、こちらに向かってきていたのは光助のクラス担任だった。彼はまだ年も若く、頭が大きくて体がひょろひょろと細いので、生徒たちから「豆もやし」というニ…
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Peace!78

地味だけどかっこいい。それが入学した高校での光助の評価だった。 女子生徒の受けがいいと、同性の生徒たちも一目置くようになり、光助の周りはいつも賑やかだった。向こうから声をかけてくれるのは非常にありがたい。相手が提供してくれた話題に合わせればいいのだから。それが彼女の有無や、女性を対象とした話に流れそうになったときは適当に相槌を…
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Peace!77

文字通り、突き抜けた光助はすっきりした気分でバスルームから出た。 「すいませんでした」 「……え…?あ…あぁ…」 「撮影、続けましょう」 「……平気なのか?」 「何がですか?」 「いや……うん…今のは、失礼な質問だったな」 「?」 「はじめよう」 「お願いします!」 あられもない姿で醜態を演じてしまった光…
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Peace!76

これを…どうしろと? なんだ?これは? 脱衣場においてあったのは艶やかな色彩の女性用の着物だった。 で、 なんで、これだけ? 襦袢はどこにある?腰紐は?足袋は? 母が着物を着るときに並べられるこまごまとしたものがここには一切ない。 一座の劇団員たちが舞台で身につける簡単な着物でさえ、簡単に結べる帯が…
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Peace!75

部屋に通されて、その広さに驚いた。 和室なので正しい名称は知らないが、ここはいわゆるスイートルームというところではないだろうか? 大きな窓にはカーテンの代わりに障子が嵌めこまれ、やわらかい自然の光が室内に注がれている。もちろんそこは畳敷きで、黒くてどっしりとした重厚感ある座卓と肘掛け付きの座イスが置かれていた。そしてその上にはふ…
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Peace!74

逃げようと思えば、いつでも逃げられた。 つながれた手はほどこうとすればほどける強さだった。 でも光助はそうしなかった。 これからどこへ連れて行かれ、何をされるのかわからない。だけどどういうわけか、この手を離され、そこに置き去りにされることの方がずっと怖くてたまらなかった。 公園を抜けて通りを渡ると大きなホテル…
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Peace!73

その日は高校の入学説明会だった。 手続きを済ませたあと、エリさんは友達と約束があるからとそのまま出かけてしまった。光助の入学式に合わせて帯を新調するらしい。エリさんが言うには「厄年には長いものを購入すると厄落としになる」のだそうだ。たしか中学に入学するときも、そんなことを言って帯を新調したような気もするが、母親のうれしそうな顔…
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Peace!72

中学三年の夏にめでたく光助はタウンデビューを果たした。 その街では素性を明かさないことが暗黙の了解としてある。実名を公表すると差し支えのある者や、未成年者はそうすることが得策なのだ。光助はそこで「蘭丸」と呼ばれていた。姫の連れて行ってくれた喫茶店『Blue』のマスターが、はんなりとした風情の光助を見た瞬間、ひらいめいたそうだ。…
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Peace!71

「こぉちゃん、発泡酒でいい?」 「うん。なんでもいー」 脱衣場の外からの声にこたえ、光助は風呂上がりのほてった体を肌触りのいいバスローブに包んだ。 「うぉ~、天国!」 エアコンがほどよく効いたリビングのフローリングの床が素足にひんやりと気持ちいい。部屋の中央には凝った模様の絨毯が敷かれ、低いどっしりとしたテーブルがのっていた…
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Peace!70

光助は薄いブルーのシーツがかかった、ダブルサイズのベッドの上にそっと竜次をおろした。 竜次の前髪が汗で額に貼りついている。暑いだろうとはらってやると、何かぶつぶつ言いながら、いやいやをした。が、すぐにその動きはとまり、再び静かな寝息がたてはじめた。その様子が幼い子供のようで光助は思わず微笑んだ。 勝負は僅差で光助が勝った…
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Peace!69

はじめまして~♪よろしくねっ♪ しばらく横一列に三人並んで腕を組んだまま歩いた。すれ違う人がみな何事かと振り返る。 そりゃぁ、そうだろう。 妖艶な顔立ちの姫と、武将顔の竜次、黙っていれば貴公子と言われた光助の三人だ。目立たないわけがない。 何かのパフォーマンスかと思ったのか、口笛を鳴らされたりもした。 だが光助…
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Peace!68

せーの・・・・! 竜次が言うと、彼を取り囲んでいる男性陣がいっせいにグラスを持ち上げ、大きな声をあげた。 「Cin-Cin!」 うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ! そのよーな言葉を竜次の口から聞くなんて、うれしーっ!いや、はずかしーっ! 「光さん勘違いしないでね~これは乾杯って意味だからね~」 竜次は楽しそうに言う…
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Peace!67

それ以来、姫とは親友としての付き合いが続いていた。 姫はその後の光助の成長を最も近くで見てきた人間といってもいい。 「せっかくだからぁ~一緒に遊ばない?」 「一緒に遊ぶっていってもなぁ……」 竜次は自分たちと違って、ごく普通の男だ。ましてや、ついさっき、ひとつの恋を失ったばかり。こちらのノリについてこられるとは思えな…
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Peace!66

それから光助は猛勉強をした。 と、いっても受験勉強ではなく、自分と同じ性的マイノリティーにある人について、だ。 学校が終わると区の図書館へゆき、ありとあらゆる分類から、そのことについて書かれていると思われる文献を探し出しては片端から読んだ。検討違いのものを選ぶこともあったが、それはそれで違う世界を知ることができ、楽しかった。…
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Peace!65

以前から薄々気付いてはいた。 自分がある事柄に対して同級生(男子)との間で共有する感覚というものを欠いているのではないか? ということに。 一般的な男子中学生の関心事といえば、受験、部活、ゲーム、漫画、アニメ、女の子だろう。光助もほぼそれに準じていた。つもりだった。 だが同級生男子たちがテニス部女子のスコートから…
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Peace!64

その声は…まさか…? 振り返ると、鬱陶しいほど長い睫に切れ長の大きな目、艶のあるふっくらとした下唇を持つ、西アジア系のハーフに見えないこともない、エキゾチックな顔立ちをした人物が立っていた。 「姫!?」 「こぉちゃんっ!やっぱり、こぉちゃんだぁぁっ!!!!」 光助が『蘭丸』と呼ばれる以前の、しかもかなり親しい…
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